Sablo Mikawaインタビュー:独自の視点でカルチャーを描き出す油絵画家
2019.04.26
油絵という手法を使いながら、スケートボードやヒップホップといったストリートカルチャーともコネクトした作品を生み出してきたアーティスト、Sablo Mikawa(サブロミカワ)。アーティストとして本格的に活動を開始してから、まだ5年ほどしか経っていないというが、その独自なスタイルによって、すでに知る人ぞ知る存在となっている。今年2月末に原宿のTHE _____ GALLERY(THE blank GALLERY)にて個展『UNCOUTH FELLOW』を開催し、そこで新たなシリーズとなる<Giant36>を発表した彼だが、その個展会場にて初となるロングインタビューを行なった。
ーーーまず最初に、油絵を描き始めたきっかけを教えてください。
「小さい頃から絵が好きだったので、自分から絵画教室に行きたいって親にお願いして、小学校1年から6年まで絵画教室で絵を習っていて。最初はクレヨンとかで描いてたんですけど、絵画教室で油絵を描いている大人がいたり、結構、大きい子供も油絵を描いていたので、『僕もあれやりたい!』って先生に言ったのが始まりですね」
ーーー子供心に、油絵に対してどういう魅力を感じたんだと思いますか?
「重厚感というか。紙に描くのよりも、キャンバスのほうが高級感というか、大人な感じがしたし。あと、絵がデコボコして立体感があるのも、“ザ・絵画”って思ったし。そういう、憧れみたいなところからスタートしました」
ーーーその後、中学や高校の美術部に入ったり、美大に通ったりっていうのは?
「いえ。6年間絵画教室に通って以降は、(美術の授業以外の)正式な美術教育は受けていないです。少しだけ、アトリエとかでデッサンを習ったりとかはあったんですけど、それ以外は全部独学ですね。中高の6年間は剣道に専念してたので、絵からもほとんど離れていました。だから、最初に絵画教室で油絵を習って、その経験を引きずって、ずっと今日までやってきたっていう感じです」
ーーー高校を卒業してから、再び絵に戻ったということでしょうか?
「そうですね。高校を卒業して、何をしようか迷っていた時期があって、ヨーロッパへ旅行に行ったんですよ。その時、自分に何が出来るのかっていったら、絵を描くことくらいだったので、旅で会った人たちとか風景を、ペンで描きながら旅をしていて。その旅の中で、フランス人のデザイナーと出会ったんですけど、その人のフォントとかイラストとかいろいろと描きためているノートを見せてもらったら、それがめちゃめちゃ格好良くて。そのフランス人の場合はデザインですけど、何か一つを突き詰めることが大事なんだなっていうことに気が付いて。とはいえ、まだ、画家になるってところまでは行き着いてなかったんですけど、その後、日本に帰ってきてからも、出来ることはやっぱり絵しかなかったから、油絵を描き進めていって。それで、2014年、27歳の時にようやく画家になることを決意しました」
ーーー典型的な油絵とはまた違うモチーフを描いているわけですけど、それはいつからですか?
「2014年に画家として始めた時には、すでにスケートボードとか映画、それからヒップホップに関する人物とかの絵を描いていました。最初は何を描いたら良いか分からなかったので、とりあえず好きな物だけを描くっていうところからスタートして。映画を通じてスケートのカルチャーを知ったり、ヒップホップの世界にもスケートをやっている人がいたり、さらにスケートボードの世界にもアーティストがいて。アートの世界のことを学ぶと、またそこがストリートと繋がっている部分があったり。そういったモチーフをもとに描いて、段々と作品として形になっていくうちに、考えも固まってきて。それで、今のようなシリーズが出来てきました」
ーーー本格的に画家としての活動を開始して、最初は具体的には何をやったわけですか?
「とにかく作品を描きためていきました。2017年に知り合いの美容室を借りて、最初の個展『NOBINOBISHINOBI』をやりました。それから、同じ年に自分で貸画廊を借りて、また別の『SAVAGE TRIBES』っていう個展をやって。画家としての活動を進めていく上で、この個展が結構大きなきっかけになりました」
ーーー最初に手がけたのがスケーターが転倒しているところを描いた<Clash>というシリーズということですが、このシリーズはどうやって生まれたんでしょうか?
「スケーターって転んで大怪我するっていうリスクとかも承知で、いろんなことに挑戦するじゃないですか。スケートボードっていわば、ただの遊具なわけですけど、それに凄く情熱を込めていて。そのパッションを表現するのには、格好良くキメているところよりも、痛みが伴うような、転んでいるところを描いたほうが、この人たちの無茶苦茶ぶりが伝わるんじゃないか?って。あと、実際に技が出来るようになるまでに、圧倒的に転ぶ回数のほうが多いので、そういう裏側の部分を描きたくて。自分の性格的なところでも、格好良くキメている姿よりは、失敗したり、ちょっと情けなかったり、不器用な部分のほうが、人間味が伝わってきて良いのかなっていうのもありますね」
ーーーちなみに絵のモデルはいるんでしょうか?
「モデルはYouTube動画からですね。僕自身、実はスケートはそんなに上手く滑れなくて、オタクみたいにYouTubeでスケートの動画を結構観ているんですけど。それで転ぶシーンが入っているやつとかがあるので、そんな中からスクリーンショットして、自分が良いと思った一瞬を油絵にしてるっていう感じです」
ーーーその次に作ったシリーズが<Y.b.n.s.>(ヤバニーズ)ですね?
「はい。このシリーズは自分の幼少期の体験からきていて。まだ幼稚園くらいだったと思うんですけど、親とディズニーランドに行った時に、カリブの海賊で見た、イカれた海賊の人形がもとになっています。その人形が超リアルで気持ち悪い顔をしてて、子供心に怖かったんですけど。でも、そこを出た後にちょっとワクワクもしていて。それがずっと頭に残ってたんですよね。人形の存在感というか、不気味さも含めて凄いなと。そこから着想を得て、あれが現代にいたらみたいな感じで、自分のオリジナルの野蛮人として、想像上で作った人種です。“野蛮”で“ヤバい”っていう意味で、“ヤバニーズ”って名付けました」
ーーーその次の<Hard liner>シリーズは、今までのシリーズとも違って昭和な雰囲気が漂っていますが、こちらはどうやって生まれたのでしょうか?
「自分の父親世代でもある、70、80年代の学生を描いています。一見するとヤンキーですけど、硬派な日本男児と言いますか、昔の格好良い、昭和の男というイメージですね。彼らが着ているのがいわゆる変形学生服というやつですけど、学ランの丈を伸ばしたり、短くしたり、ズボンを太くしていたり。それを全部、学ランという枠の中でやっているっていうのが、日本人らしいなと思って。凄くシンプルだし、ミニマム。これは日本独自のものだし、一つのカルチャーとして興味深いなって。そういう独自な目線も含めて、“硬派”っていうテーマで描いたのが<Hard liner>です」
ーーーもう一つのシリーズの<Kung fu>についても教えてください。
「小学校の時に絵画教室と並行して、少林寺も習っていたので、子供の頃からジャッキー・チェンとかカンフー映画が大好きでした。それから、十代後半にウータン・クランっていうラップグループを知って、彼らのPVを観た時にすごく衝撃的だったんですよ。アメリカ人がアジアのカンフーを取り入れてラップをして、しかもそれがすごくセンスが高くて、個性的だった。外国人が異国の文化を使ったコラボレーションとしては、最高の例かなって思っていて。自分もカンフーが好きだし、師弟関係とか、戦いとか、修行とかっていう、そういうカンフーの要素を描こうって。あと、ウータンから衝撃を受けた、外国人が異国の文化を取り入れるっていう部分で、日本人がBボーイの格好をしたり、黒人がカンフーをやっているところとかを描いています」
ーーーでは、今回の個展『UNCOUTH FELLOW』でもメインとなっています、<Giant36>という新シリーズはどのように生まれたのでしょうか?
「最初は感覚的にスタートしたシリーズで。体の大きい生物とか人物とか、とにかくデカイものが好きで。そういうダイナミックなものをモチーフに、自分にとってアイコン的になるような作品を作りたいなと思って。それで自分自身を撮影して、巨人に見立てて描いたのが始まりです。頭を小さくしたのも、単に巨人っぽく見せるためなんですけど、そこからさらにギリギリまで頭を小さくして、より強調して描いています。バランス的に、格好良いって思えるところまで持っていったつもりなんですけど、じっくりと作品を観ていると、巨人なのに、そんなに強そうには感じない。このアンバランスさが少し間の抜けた、人の無骨な部分みたいのを醸し出してるんじゃないかなって思います」
ーーー話は変わって、去年、ラッパーである田我流のシングル『Simple Man』のジャケットを手がけていましたが、どういった経緯でやることになったのか教えてください。
「ある日、いきなり田我流さんのマネージャーさんから『田我流と話し合って、サブロウさんに頼みたいと思いまして。ジャケットを描いてくれませんか?』みたいなメールをいただきまして、それで『やります』ってすぐに返事をしました。詳しくは聞いてないんですが、おそらくInstagramで僕の作品を知ったんだと思いますけど、<Kung fu>シリーズを気に入ってくれたみたいで。『白黒のあの色合いとタッチで描いて欲しい』っていう要望で、『あとはサブロウさんが良いと思ったように』っていう話で。けど、仕事の場合は相手にも満足してもらいたいので、一応、『何かイメージがあったら教えてください』って伝えたら、田我流さんがパーカーを着て傘をさしている画像が送られてきて、『何か侍みたいな格好をして、こうやって傘さしてるようなのが良いかな?』って。だから、あの絵は田我流さんのアイディアを形にしたっていう感じです。マネージャーさんを通してですけど、本人も『気に入ってる』って言ってくれてたそうなので、自分の中では『良し!』って(笑)」
ーーー油絵を通して、何を表現していきたいと思っていますか?
「今、一番描きたいのは、人の不器用な部分とか愛嬌の部分で、それを絵を通してユニークに表現したいと思っています。このギャラリーに展示している絵も全部そうなんですけど、僕の絵には人が必ず出ていて。<Giant36>というシリーズに関しても、人の不器用な部分であったり、あと男臭さい無骨な部分を描いているので、今回の個展のタイトルも、“無骨者”っていう意味の『UNCOUTH FELLOW』にしました」
ーーー一番最初に、正式な美術教育を受けてこなかったという話がありましたが、今、画家をやっている上で、そのことは結果的にプラスでしたか? あるいはマイナスだったでしょうか?
「自分にとってはプラスですね。画力の面でいったら、正式な教育を受けてないから、凄く荒いと自分では思っていて。だからこそ、アイディアとか、描く対象っていうのを凄く考えないといけないっていうのはあるって、それが面白さでもあります。<Giant36>にしても、ちゃんと美術教育を受けていなくて、人体の構造とかも全然分かっていないから、そういうのを理解している人から見たら『これはおかしいぞ?』ってなると思うんですよ。でも、自分はこういうモチーフで描きたいから、やるしかないし、それがある意味、自分の作品になってるのかなって」
ーーー最後に今後の活動ややってみたいと思っていることを教えてください。
「今あるシリーズの中をもっと強固なものにしていって、そこから、さらにいろんな展開をしていきたいって考えてます。あと、これはもっと先の話かもしれませんけど、今までは自分の好きなものとか、頭に浮かんで『これが良い!』って思ったものをパッパっと描いてきていたので、もう少しアートの歴史とか、アート自体を見つめて直して、そこに自分が今までやってきたこととも照らし合わせて、何をやるべきかっていうのを見極めてみたいですね」
【Infromation of Sablo Mikawa】
Instagram: @sablomikawa1987
writer: Kiwamu Omae