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マンボウ・キー インタビュー:クィアとして異なる時代を生きる父と子のシークレットな人生をアートで表現する個展を開催

2024.06.24

台湾を拠点にファッション、広告に加え、多数のセレブリティのプロジェクトに関わる写真家のマンボウ・キー。多感な10代に父親の禁断のコレクションである男性との自撮りセックス・テープを見つけたことから、自身のアイデンティティの探求が始まり、それがアートを媒介とした作家と父親との対話ともいえる「Father’s Videotapes」というプロジェクトとして結実し、オーディエンスの目の前に現れることとなる。台湾でいくつか賞を受賞している本プロジェクトのエキシビションを青山と日本橋馬喰町で開催中のマンボウに、父親との関係、プロジェクトが始まった経緯、エキシビションを通して表現したかったことなどについて話を聞いた。

――展示を拝見しました。ひとつひとつの作品はアートと鑑賞者である私ということ以外は私の人生と共通点がないように感じられるのですが、全部を見終わると、何か私の中で足りなかったパズルのピースが埋まったように感じました。具体的にうまく言葉で表現できないのですが。

マンボウ「社会的に見ると、父親と息子という違う世代に生きている2人なんだけど、僕の父親は彼の時代でもとても独立していた人間で、僕も僕の時代で独立して生きている。父親とはセクシャリティやジェンダーについて話したことはなかったんだ。でも、10代の時に父親のビデオテープを見つけて、再生してみたら、そこには父親が男性とセックスをしている姿があって、トラウマになるほどショックだった。父親に何が起きているのか、理解できなかったよ。でも、そのあと、彼は僕にゲイポルノをくれたんだよ」

――ということは、そのあとにお互いのセクシャリティのことを話すようになったんですね。

マンボウ「特に話したことはないんだ。「これ、見たかったら見れば」って、ビデオを渡されただけ。彼は僕がセクシャリティを追求するのを止めることはしなかったね。彼も自由人だったから、僕の自由を尊重してくれた。10代の頃は自分の父親はクレイジーだと思っていたけど、放っておいてくれてよかったと後になって思ったよ。だけど、やっぱり父親に自分のことを知ってもらいたくなったんだ。父親と僕は違う年代に生きて、父親の場合は(ゲイであることは)アンダーグラウンドで秘密のことだったけども、ビデオの中の父はクレイジーでオープンだった。きっと彼も公で何かを言いたかったと思うんだけど、時代的に言えなかった。だから、このプロジェクトは2つの違う時代のシークレットな人生を”対話”という形で比喩的に表現しているんだ。僕の時代、今の台湾では公に話すことはできるからね」

――多くの人から聞かれていると思うのですが、最初に個展を開催する時、お父さんには事前に伝えたのですか?

マンボウ「実際に会場にも来てるよ。スーパースター気分だったみたい(笑)。「俺の写真とビデオはどこだ?」って」

――笑。ビデオや写真を個展で展示するって知ってたんですね。

マンボウ「お前はアートをやってるんだろ。そしたら、これをあげるよってビデオをくれたからね。僕がそれを使って何かすることは期待してたと思う」

――バックグラウンドを教えてください。台中の山に囲まれた環境で育ったとのことですが。

マンボウ「台中の東勢(Tonsei)というとこで生まれ育った。大学に入ってからは台北に住んでいるよ。村では父親は有名だった。カラオケバーやカジノを経営していていたからね」

――写真を撮るようになったのはいつ頃ですか?

マンボウ「カメラを買って撮影するようになったのは大学に入ってから。最初は父親や祖母、従兄弟といった家族の写真を撮っていた。趣味みたいなものかな」

――「Father’s Videotapes」のプロジェクトをスタートしたのはいつですか?

マンボウ「卒業の課題として始まったんだ。だから、15年くらい前かな。自分にとってエモーショナルなプロジェクトだった。僕が大学院生の頃はまだ台湾でもそんなにセクシャリティに関してオープンではなくて、仲のいい友達にしかゲイだって言ってなかったんだ。先生には理解してもらえなかったよ。卒業したあと、ファッションなどの商業写真の仕事で成功して、自分の審美眼に自信が持てるようになったんだ。それで、パーソナルなことを表現したくなった。ちょうどその頃、台湾で同性婚の議論が活発になってきたんだ。みんなその話しをしていたんだけど、世代間での意見の食い違いがあった。上の世代の人たちは、若者が何か変なことをしようとしてるって騒ぎ立てて、カオスだったよ。そんな法律が通ったら、出生率が下がるって言ってる年配者もいた。ゲイはずっと前からいて、ただみんな公にしてなかっただけだから、出生率が下がるなんてことないのに。それで、上の年代の人たち、僕の年代の人たち、そして、もっと若い年代の人たちが自分たちのストーリーを語る必要があると思ったんだ」

――展示を見たオーディエンスからどんな反応が来るか想像できましたか? どのような反応を期待していましたか? 

マンボウ「いろんな人の間で対話が始まるようにしたかった。アグレッシブなセクシャリティだけでなく、詩的に表現されているから、誰でも楽しめる展示になっていると思う。たくさんのメッセージの中から、自分が好きな情報を受け取って欲しい。父親はこうあるべきっていう父親像があると思うけども、僕の父親は父親っていうよりは友達って感じなんだ。さっきの質問にあったように、この展示のことをあなたのお父さんは知っているの? ってよく聞かれるけど、僕の父親はみんなが考えるような人間じゃないんだよね。この展示でスーパースターになったと思っているから。あとは、年配のゲイの人がやってきて泣きながら、「これはまさに私のストーリーだよ。公にできるなんて考えたこともなかったよ。ずっと隠していたからね」って言ってきたり。でも、父親と同じ年代のゲイの人たちにインタビューしようと試みたんだけど断られた。僕はシークレットを探していたんではなく、いろんな世代間での対話を望んでいただけなんだけどね」

――このプロジェクトを進めるプロセスの中で印象的な出来事はありましたか?

マンボウ「2018年に祖母が亡くなったんだ。僕は祖母ととても仲が良かったから、お葬式にも出て、地元に2ヶ月近く滞在したんだ。その時は父親もずっと地元にいて、初めて長く一緒に過ごすことができた。父親はいつも家にいなかったからね。彼は60代後半になってたし、ボクとの関係も強いものになっていた。僕たちアジア人は家族の絆というものが強いんだ。自分はクィア(*)だとしても、僕たちは家族なんだなと。アジア人としてクィアであることはどんなことかを見つけていきたいんだ。たくさんのクィアたちが僕の展示を見に来て、自分のプライベートを家族に知ってもらいたいって思うようになったり、家族と一緒に来て対話の機会を持ったりしているんだ」

――東京で個展をやることになった経緯を教えてください。

マンボウ「野澤さんに聞いてみよう」

野澤光君さん(Manbo Key プロデューサー/パブリシスト)「マンボーの作品に感銘を受けて、最初は2020年に開催する予定だったんです。コロナで開催できなくて、2021年も開催ができなかったのですが、諦めたくなくて。幸運なことに、昨年PARCEL(ギャラリー)のご担当の方が興味を持ってくれて、特に2019年のオリジナルバージョンの「Father’s Videotapes」の方に興味を持っていただき、今回開催することになりました」

マンボウ「こういった展示は、欧米の方が理解してもらいやすいとは思うけども、アジアで開催することに意味があると思ったんだ。なぜなら、アジアの多くの国がまだ同性婚を認めてないからね。だから、いろんな年代の人たちの間での対話のきっかけになればと思ったんだ」

――今回の日本の滞在で特にやりたいことはありますか? 何度も来日されてますよね?

マンボウ「そうだね。日本には何回も来てる。実は僕の祖母が日本語を話せるんだ。祖母と2014年に一緒に京都に行って10日間くらい滞在した。祖母は日本の文化のことも知ってて、よく、日本語を学んでいた時のことを話してくれたから、日本に来るとなんだか懐かしい感じがするんだ。日本語も習いたいな。僕の家族はハッカという民族なんだけど、2014年の祖母と京都に滞在した記録を地元の日本家屋でドキュメンタリーとして展示して、ハッカの人たちに見てもらったんだ」

*性的マイノリティや、既存の性のカテゴリに当てはまらない人々の総称

Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL

 

【開催概要】
https://atelier506.jp/archives/news/manbokey

■東京 青山
タイトル:Father’s VHS 2024
会期:2024年6月7日(金)〜 2024年8月29日(木)予定
会場:H BEAUTY&YOUTH(東京都港区南青山 3-14-17)
入場料:無料
HP: https://store.united-arrows.co.jp/brand/hby
公式 Instagram: @h_beautyandyouth

■東京 日本橋馬喰町
タイトル:Father’s Videotapes
会期:2024年6月7日(金) 〜 2024年7月7日(日)予定
会場:parcel(東京都中央区日本橋馬喰町 2 丁目 2-14 まるかビル 2F)
入場料:無料
公式 Instagram:@parceltokyo

writer: Atsuko Matsuda