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三好桃加 インタビュー:オフの日をコンセプトに仏像を彫る若き彫刻家

2024.11.14

筋肉隆々で衣の裾を翻しながらセグウェイに乗る仏像、「セグウェイに乗る仁王像」で、強烈なインパクトを残した彫刻家の三好桃加。シリーズとなっている「仁王像たちのオフの日」展では、狛犬や餓鬼といったキャラクターたちも職場である寺社を抜け出して、仁王像とともに時にはスイーツを頬張り、笑顔で休日を楽しんでいる姿が印象的だ。ユーモア溢れる作風で幅広い層のファンを魅了している彫刻家に、仁王像をモチーフにするようになったきっかけや制作のプロセスなどを語ってもらった。

――三好さんの最も知られている作品、「セグウェイに乗る仁王像」がSNSでバズったのはいつですか? 

「大学2年生の頃なので、7年くらい前です。3年生にあがる際に進級展というのがあり、それに向かってクラスメートたちがやる気満々でデカいのを作っていたので、私もつられて…(笑)」

 ――仁王像、かなり大きいですよね?

「7年間ずっと、高さが180cmくらいと思っていたんですよ。でも、数日前に搬入業者さんが動かす時があって、2メートル超えていますよって言われました(笑)」

 ――セグウェイに乗る仁王像は、存在するのは1体だけですか?

「2メートルの大きさの作品1点のみです」

――企業などに展示されているのをSNSで見たので何点かあるのかと。

「行脚しているんです。購入者の方がご自宅に置かないで、いろんな会社で展示してもらっているみたいです。今は日本橋のギャラリーにずっといて、今回、そこのギャラリーで個展をするので公開展示します」

 

――三好さんの作品は何度か実際に拝見しているのですが、素材はテラコッタで中は空洞になっているという理解で合っていますか?  簡単に制作プロセスを教えてください。

「はい。粘土で焼き物です。最初はみっちりつまった状態で作って、ワイヤーでカットして中をくり抜いていきます」

 ――なかなか想像できませんが…。

「作業風景を見ないとわからないですよね。私も大学の授業で説明を受け続けても、実際に自分でやるまでは、先生は何を言っているんだろうって感じでした」

――制作工程でどの作業が一番大変ですか?

「くり抜く時ですかね」

 ――技術的に大変なのは?

「最後はくり抜いて中心が空洞になりますよね。あまりにも複雑な形だったりすると粘土自体の重さで崩れてしまうんです。木や石だと手を上に上げたポーズを作れるのですが、粘土だけだと難しいので、どうやったら自立させられるか計画を練るのがしんどいです」

――仕上げは窯で焼くのですよね? どのくらいの時間かかるのですか?

「はい、で焼きます。私の場合は素焼きで800度で焼きます。1日で焼けるのですが、その後に温度を300度まで落とさないと窯の扉を開けられないんです。300度以上だと、扉を開けた時に熱風で周りの紙などが燃えてしまうんです。なので、焼いて1日、冷まして1日です。焼き上がりはポカポカしてますよ」

 ――パリン!って割れてしまうこともあるのですか?

「ありますよ。爆発したり。パン!って音がしても窯を開けられないので、「あー、割れたな。2日後にならないとどこが割れたかわからないけど」って。でも、綺麗に破片が残っていたらくっつけられるので。割れた食器も金継ぎでくっつけられるのと一緒です。綺麗に割れていれば大丈夫です(笑)。セグウェイもバキバキに割れました。じーっと見るとここかなって分かります。そもそもセグウェイ仁王像は大きいので、分割した状態で焼いています」

――仁王像を作ったのは「セグウェイに乗った仁王像」が一番最初ですか?

「芸大に入る前に美術予備校に通っていました。授業では入試に出そうな課題をひたすらやるのですが、浪人生たちの息抜きのために文化祭みたいみたいなイベントが1回あるんです。その時に仁王像を作りました。なので、結構ずっと仁王像ですね」

 ――仏像巡りが好きだったとか? 

「予備校の時の先生と大学の先生がたまたま同じ方で、私がセグウェイに乗った仁王像作った時に、「三好は予備校生の時も仁王像作ってたし、今回もそうだし、何か作れって言ったら仁王像作ってるから、仁王像に何か思うことがあるんだろうね」って言われたんです。それで、自分でも何で仁王像なんだろうって考えたんです」

 ​​――なぜ、仁王像だったのでしょうか?

「5歳の時に父が亡くなって、大人たちから桃加のお父さんはいい人だからいみんなより先にいって、病気も辛いこともないところで、仏様と宴会をしているんだよって聞かされてたんです。5歳だからそのまま信じて、仏様の仕事は死んだ人をもてなすんだと思っていたんです。宴会が仕事だから、私たちのお祈りなんて聞いてくれないし、今生きている私たちがちゃんと生活できているのは、母親が頑張っているからだって思っていました。私の家は法事とかも家で行うほんのり仏教の家だったのですが、当時はお祈りするのも嫌でした」 

――仏様は自分たちのお祈りも聞いてくれないし、遊んでばかりだから嫌いと。

「そうですね。そして、父方のおじいちゃんのことも嫌いでした。頭がツルツルで肩幅が広くて、仁王像に似てたんです。話しかけても私のことを無視するし。これは、あとになって、ただ耳が遠かったってことがわかるのですが」

――嫌いだったおじいちゃんが仁王像に似ていたとは!

「いつも行くお寺の入り口に仁王像があって、母親におじぎしなさいって言われても、どうせ、おじいちゃんみたいに無視されるんだ。くそじじい! って思いながら中学生までイヤイヤおじぎしてましたね。それで、中学の頃におじいちゃんが入院してお見舞いに行ったら、普段は威圧感のあるおじいちゃんが、お母さんとめちゃくちゃ話して冗談も言ってたんです。お母さんに、「おじいちゃんってあんなに面白い人だったの?」って聞くと、お父さんのお父さんなんだから、面白いにきまってるでしょうと。それを聞いて、おじいちゃんにも子供の頃があって、おばあちゃんと結婚して、お父さんが生まれたんだなって想像してみたんです。私が見て来たのはおじいちゃんの一面でしかなかったんだなと」

――それで、おじいちゃんに似てる仁王様にも別の面があるんじゃないかと思ったのですか?

「はい、そう思って、仁王様が見てきた世界を想像してみたんです。その仁王像は、700年前からお寺にいて、当時はもっと人間の力が弱くて、世の中に理不尽なことも多くて、それを誰かのせいにしていかないと生きていけなかった。誰かに必要とされたから、このお寺に700年前に仏像ができて、今まで修理をされながら残ってきた。ここに立ってずっと誰かを救ってきたんだなってわかって、”くそじじい“なんて言ってすみませんでしたって反省しました」

――お祈りに対する考え方も変わりましたか?

「自宅の法事の集まりとか、時間も長いし嫌だったのですが、仏事がなくなると寂しいなと。今、お寺に行くとどのくらいの人が祈ってるのだろうって考えたり、豊作を祈願する文化もなくなってきて寂しいなと思うようになりました」

――昔と違って飢餓や疫病の心配もなくなりましたしね。

「仏像たちは、人に頼られなくなって寂しくなったり、業務が減って暇かもしれませんが、これは世の中が平和な証拠かと思います。でも、お寺や神社に人が来なくて、人間の世界が苦しすぎて人がいなくなったのではって勘違いされたら嫌だなと(笑)。お寺や神社に来なくなった代わりに、私たちは外でこんなに遊んでますよ。現代はみんなこんな風に楽しんでいるんですよっていう仏像たちへの報告が作品になりました」

 ――それで、仏像たちが、スイーツ食べたり、セグウェイ乗ったりしてるんですね。

「そうですね。最新の乗り物はこんな感じですということで。お寺の中では乗り物に乗れないので、もし仏像たちが外出たらみんなが車に乗ってるから、それ見たらびっくりするんじゃないかなと。でも、車は境内には入れないので、セグウェイにしてみました」

――他の乗り物にも乗ってもらいたいですね。

「いつかはスケートボードに乗ってる仁王像とか、スクーターや自転車に乗ってる仁王像を作りたいですね」

 ――大学院は文化財保存学保存修復彫刻ですよね? 文化財はどのようなものが多いのですか?

「ほぼ9割仏像です(笑)。大学の時に仁王像ばかり作っていたので、先生やクラスメートから保存修復に進むの?っ てよく聞かれました。実際勉強したらめちゃくちゃ好きになったりするのかなと思って研究室に入ってみたんですけど、そんなでもなかったです(笑)。今もバイトで仏像修復と新しい仏像を作る工房にいます」

 ――どのあたりの仏像の修復をしているのですか?

「大学院の研究室にいる頃からいろんなお寺から仏像を修理して欲しいという相談が来るんです。それを先生と一緒になおしていました」

 ――古い仏像なのですか?

「主に鎌倉時代から江戸時代です。仏像業界では江戸時代は最近なんですよ(笑)」

――好きな仏像はいますか?

「快慶さんが作った醍醐寺の弥勒菩薩坐像です。運慶、快慶の作品は人間的でカッコいいポーズが多くて好きです。造形的にその人が一番よく見える動きをしているなと。鎌倉時代の仏像は生きている人間に近い肉体なので一番好きですね」

――海外の彫刻家で好きな人はいますか?

「美術がとても好きっていう感じではなくて….。フランソワポンポンっていう人が好きです。デフォルメした動物で知られる彫刻家で、名前もかわいいので」

――三好さんの作品を購入している方はどのような方なのですか? 外国人も多いのですか?

「ほとんど日本の方ですね。若い女の子が買っていく時もあれば、仏像好きなマダムの時もあります。お寺巡りしている人とか、経営者の方も意外と多いです。友達からも、「三好の個展は普段現代アートを見ない人も来てるんじゃないのかな」って言われました。先日は、狛犬や獅子が好きな人たちが集まるグループの人たちが見に来てくれました」

――2024年11月はグループ展と個展が同時進行していますね。個展は何点展示するのですか?

「新作を9点予定してましたが、会場の大きさの関係で8点になるかもしれなくて1階と2階で展示していて、2階に「セグウェイに乗った仁王像」がありあます。tHE GALLERY OMOTESANNDOの「ネオジャパ展!」の方は、同じギャラリーで開催した個展に出展した作品を2点展示します。こちらの2点はギャラリーの所蔵になっていますが、はじめての受注も行います」 


■プロフィール

<略歴>
1996年4月 香川県に生まれる
2015年3月 香川県立高松工芸高等学校 卒業
2020年3月  東京藝術大学美術学部彫刻科 卒業
2022年3月  東京芸術大学大学院美術研究科 文化財保存学保存修復彫刻 修了

<受賞歴>
2014年 第79回香川県美術展覧会丸亀市教育委員会会長賞
2020年    美術学部杜の会 杜賞(卒業制作)
2020年    三菱地所賞(卒業制作)

<展示歴>
2018年12月     Sequence10(香川県/高松市美術館)
2020年10月    藝大アーツイン丸の内2020(東京/丸の内)
2022年 6月     Run by Segway with Flower(東京/日本橋N11ギャラリー)
2022年11月 「ACTIVATE KOGEI+ART 」展(東京/松屋銀座)
2023年4月     個展「仁王像たちのオフの日」展(東京/MDP GALLERY NAKAMEGURO)
2023年7月     「ULTRA CLASSIC」展(東京/日本橋高島屋S・C本館美術工芸サロン)
2023年11月    個展「仁王像たちのオフの日.2」展(東京/銀座 蔦屋書店)
2023年11月    「ChristmasArt100」展(東京/伊勢丹立川店)
2024年6月      個展(「仁王像たちのオフの.2024」展(東京/tHE GALLERY OMOTESANDO)

Instagram : https://www.instagram.com/mmk_1996/


【グループ展 開催概要】

タイトル:ネオジャパ展!

会期:
<一般公開>2024年11月8日(金)~11月20日(水)
<VIP予約会>2024年11月21日(木)~11月24日(日)

会場:tHE GALLERY OMOTESANDO

休廊日:月・火曜日

時間:12:00~19:00

WEBSITE:https://thegallery-harajuku.com/news/772/

Instagram:https://www.instagram.com/the_gallery_omotesando

【個展 展示概要】

タイトル:仁王像たちのオフの日・2024秋

会期 :2024年11月9日(土)〜29日(金)

会場:日本橋 N11ギャラリー (東京都中央区日本橋本町1-2-8 N11ビル 1F/2F)
休廊日:月、火、水曜日
時間 :12:00 〜19:00 

writer: Atsuko Matsuda