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COIN PARKING DELIVERYインタビュー:スマホを使って未来をカラフルに彩る新世代のアーティスト

2020.07.29

現在、22歳という若さかつ、アーティストとしての活動がまだ2年ほどのキャリアながら、すでに様々なブランドとコラボレーションを行なうなど、高い注目を浴びているアーティスト、COIN PARKING DELIVERY(コインパーキングデリバリー)。スマホのアプリを使って作品を描くというオリジナリティ高いスタイルだけをとっても、彼が新しい世代を象徴するアーティストであることは明らかだが、“白井さん”、“片山さん”といった彼の描くキャラクターたちが自由に遊んでいる彼のインスタグラムを見れば、アート好きを刺激する、何かワクワクするものがあるはすぐに分かるだろう。そんなCOIN PARKING DELIVERYにとって二度目の個展となる『eNrOll』が、編集者/アーティストの米原康正氏のキュレーションによって、中目黒のMDP GALLERYにて今年7月に開催。その個展会場にて、彼のこれまでの経歴や作品に対する思いをじっくりと聞いてみた。

ーーーまずはCOIN PARKING DELIVERYという名前で活動するまでの流れを教えてください。

「美容師になりたくて、4年前に栃木から上京して。美容学校に通いながら、電車の中で勉強していたんですけど。車内が混んでいて教科書を開けなかったので、スマホで教科書の写真を撮って、それを見てながら勉強していて。勉強が早く終わった時に、スマホの中に入っているお絵描きアプリを使って、指でパーっと絵を描いていたんですよね。それから、バイトするのが嫌すぎたので、バイトを辞めて、携帯で描いた絵をパーカーとかTシャツに刷って販売したっていうのが始まりです」

ーーーCOIN PARKING DELIVERYという名前にしたのは?

「なぜか分からないですけど、Cから始まる綴りがすごく好きだったんですよ。それで『(名前は)何が良いだろう?』って考えて。携帯で描くこと自体が新しいジャンルかなって思っていたので、何か新しいジャンルのものを作ろうって。それで思いついたのが、たまたま“COIN PARKING DELIVERY”で」

ーーー“コインパーキング”と“デリバリー”って、変わった言葉の組み合わせですよね。

「でも、すごく身近な言葉だなって。長いけど、身近ですごくインパクトのある言葉っていうのを大事にしていて。それは作品のタイトルとかもそうなんですけど、名前の響きに関してはすごく気を付けてます。今回の展示には出ていないんですけど、僕が描いているメインキャラクターの“白井さん”っていう名前とかもそうですね」

ーーースマホで描き始める前から、絵自体はずっと好きだったんでしょうか?

「本当にノートの端とかに描くレベルですね。スマホでやるようになってから、初めてポップ系(の絵)を描くようになったんですけど、それまではもっと抽象的な絵ばかりで。手に足が生えてるとか、意味わからないのを描くのが好きで。そういうので、ひたすら教科書の隙間を埋めていって。授業中も落書きしかしてなくて、よく怒られていました」

ーーースマホで描くことでポップなスタイルが生まれていったのか、あるいは人に見せるための作品を作るようになったことでポップなものを取り入れるようになったのか、どちらでしょうか?

「多分、スマホに描くために、こっちに変えたんだと思います。あと、そもそも、最初は服に映えるデザインを描こうって思ったので、線が多いものよりも、線が少ないほうがより鮮明だなっていうところがスタートだと思いますね。コインパ(COIN PARKING DELIVERY)を始めた時は、バイトもしていなくて、所持金が食費合わせて2万しか持っていなくて。『これを元手に、どうしたらバイト代代わりに増やせるんだろう?』みたいなところで、頑張ってましたね。それで最初に受注を取ったら、1日で70枚くらい急に売れて」

ーーーそれはすごいですね。どのように売ったのでしょうか?

「自分のインスタグラムですね。その時はまだコインパのアカウントもなくて、普通に個人のアカウントを使って。買ってくれるのは友人が多くて、さらに友人から噂を呼んでみたいに広がっていって。その後、美容師になったんですけど、2018年の5月に美容師も辞めちゃったんですよ。辞めたら、周りの人間に馬鹿にされそうになって、それが嫌すぎて。『じゃあ、俺、9月に個展やるよ』って宣言して。その時はまだスマホでしか絵を描いてなかったから、キャンバスの存在も知らなくて。けど、4ヶ月で調べまくって、展示の準備をして」

ーーー最初の個展のために初めてキャンバス作品を描いたっていうのは、完全に独学だったということですか?

「そうですね。画材も全然知らなくて、何の絵の具を買えば良いか分からなかったし。最初に知った画材の名前がジェッソ(注:キャンバスに塗る下地材)だったんですよ。そこで初めてジェッソを知って、けど、『なんで白に白を塗らなくちゃいけないんだ?』って。でも、やっていくうちに分かるんですよね。塗るのと塗らないのでは全然違う。でも、やらないと分からないので、最初は苦労しました」

ーーーアーティストとして活動を始めてから、結構早くから反響があったわけですよね?

「本当に運が良すぎただけだと思います。初めての個展をやる時に、広告を渋谷の大型ビジョンに全部載っけてもらって。それからすぐにPOLICEっていうイタリアのサングラスメーカーが初めて日本に出店するっていうことで、そのお店のアートディレクションをやらせてもらったんですけど、それも全部スマホで描いて。その仕事をやっている途中に壁画の仕事が入って、1ヶ月、サイパンへ行って。今だから言えるんですけど、最初の打ち合わせで『どんな感じで描けますか?』って聞かれて、『なんでも出来ます』みたいなことを言ったんですけど、正直、壁画をしたことは一度もなくて。何も画材も知らなくて、向こうでやりながら、いろいろと覚えました。そのサイパン滞在中にきたのがMONTBLANC(モンブラン)の仕事で、スーツケースのペイントをやらせてもらって。その後にまた次の仕事がきて」

ーーーコラボレーションの仕事が本当に多いですけど、クライアントからは何を求められていると思いますか?
「破壊を求められていますね。僕、自分で言うのもあれですけど、老舗ブランドがめっちゃ多いんですよ。結構、若いアーティストってストリートブランドとのコラボレーションが多いと思うんですけど、僕はMONTBLANCとかPOLICEとか、最近だとCK(Calvin Klein)とか。そういうドシッとしている老舗ブランドが多くて。毎回、そこをぶち壊すためにコラボレーションをやってくれって。だから、僕、何をやってもクライアントから怒られたことが無くて」

ーーーそこも何か理由があるんでしょうね。ところで先ほどちょっと話の出た白井さんについて伺いたいのですが、白井さんみたいなキャラクターが生まれていった経緯は?
「一発でコインパって分かるものが何か必要だって思っていて。コインパをやりだしてポップな絵を描くようになって、最初はもっと漫画に近い画風だったんですよ。1回目の個展で、基本的に全部の絵に描いていたのが、宇宙人か恐竜で。僕、昔から宇宙人と恐竜が超好きで、フィギュアとかもめっちゃ持っていたし。だから、自分の一番代表ってそこなのかな?って。それで恐竜をベースにして作ったのが白井さんで。だから、口がジョギジョギしていて、耳が生えてて、鼻が尖っていて、若干、恐竜の匂いがするんですよ」

ーーー白井さんって全身が青ですけど、あの青はどこから来ているんでしょうか?
「だんだん喋っていて分かると思うですけど、僕、熱くなりすぎちゃう人なんですよ。昔から話しだすと止まらない。親からも言われてたんですけど、『お前は昔から、これが欲しいってなったら、手に入れるまではずっとそこしか見てない』って。そういう人間なんですけど、青って、そういう自分を鎮静させてくれる唯一の色で。僕が行き過ぎちゃうんで、絵が止めてくれるっていう。防衛本能であり、視野を広くさせてくれる色なんですよね」

https://www.instagram.com/p/B_m8oNEBnBP/

ーーー青以外の色もすごく独特ですけど、これは何かの影響があったりするんでしょうか?
「多分、青に合う色を選んでいるんだと思います。パッと見てこれが良いなって、青に映える色だけを。基本的に僕、吸収しちゃうタイプなんで、他のアーティストも基本的に見ないんですよ。だから、あんまりアーティストを知らない。好きなアーティストも海外のアーティストが数人いるくらいで。けど、真似したいとかじゃなくて、作品が欲しいなとかですね」

ーーー国内のアーティストに関してはいかがですか?
「同世代でめっちゃ格好良い奴は何人かいるんですけど。去年の秋にやったZOZO TOWNの展示(『MY WAVE』)は、JUN INAGAWAとYabiku Henrique Yudiと一緒にやって。全部、僕がキュレーションしたんですけど、ZOZOさんからお話をもらった時に、一人でやってもつまらないから、面白い奴と面白い企画を作ろうって。それで、JUNとYabikuを連れてきて、3人で作品を作ろうと思ってやりました」

ーーー彼らのような同世代のアーティストからどういう刺激を受けますか?
「面白いことをやってるなって思いますね。彼らの展示を見に行くと、『うわ~、やられた!』って、毎回落ち込むんですよ。実は二人とも絵と関係ない、ちょっと違う場面で出会って知り合いになったんですけど、JUNはアーティストとしてっていうよりかは、友達としてすごく仲が良くて。Yabikuは唯一、ちゃんとアートとか社会の話を一緒に出来る仲間で。Yabikuと二人で飲むと、10年後の自分のビジョンであったり、10年後の政治がどうなっているかっていう話をひたすら、酒を交わしながらしてますね。『そのためには、今はこういうことをしなくちゃいけないよね』っていう話を二人でしたり」

ーーー二十代前半同士でそういう話をしているっていうのが良いですね。
「けど、そういう話をするのはYabikuくらいですね。Yabikuの作品は二十代には見えないですし、人生3回やり直したようなおっさんが作る作品みたいなので。けど、アーティストとして2年間やって、本当に自分が良いなと思えて、一緒にやりたいと思えた同世代のアーティストはこの二人だけでしたね」

ーーーでは、今回の個展についてのお話を伺いたいのですが、まずタイトルの『eNrOll』っていうのも一つの作品のシリーズですね?
「『eNrOll』は目と口を描いたシリーズなんですけど、今までも題名が無い状態でずっと出してたんですよ。多分、白井さん以上に、いろんなコラボレーションで出していて。みんなも見たことはあって、『これもコインパの作風なんだろうけど、何なんだろう?』って思っていたようなシリーズですね」

『eNrOll』シリーズ

ーーー個展全体のテーマは何でしょうか?
「今回は僕の思想が強いですね。例えば、これまで描いていた白井さんとかは、みんなの中にあるというか、みんなの視点なんですけど。今回は自分が生きてきた中で、自分がこう思ったとか、自分がこうしたいなとか。どっちかと言えば、自分のメッセージが強くて、初めて自分を出した展示かもしれないです」

ーーーでは、作品ごとに説明をしていただきたいんですけど、まず『OrgAN』というシリーズについて。
「『OrgAN』は今回3作品出していて。これは『eNrOll』の特徴も持ちつつ、臓器(=organ)をイメージしていて。昔は同じ夢を何十回も見る子だったんですけど、いつも体の部位が一個だけ出てくる夢が多くて。一番多かったのが、目しか見えてないんですけど、目にひたすら追われるっていう。多分、クジラの目だったと思うんですけど。その夢を最近たまたま思い出して、部位だけっていうヒントと『eNrOll』を合わせて、作ってみました」

『OrgAN』シリーズ

ーーー体だから、左右対称だったんですね。
「そうです。左右対称はやっぱり美しいなと思うんで。一番右が鼻の粘膜を描いていて。僕はちょっと呼吸器系が弱いので、鼻を描いて。真ん中が頭蓋骨と肋骨と肺で。ちょうど、コロナパンデミックが起こった時に描いたもので、コロナで肺をテーマにしたが超増えたんですけど、その中でも最初に描いた作品ですね。一番左が背中の骨で。後ろから見た、肩甲骨の形をイメージした作品です」

ーーー次が写真を使った作品ですけど、写真の上に描くっていう手法はどうやって生まれたのでしょうか?
「スマホで絵を描く時って、一回一回手で全部描いてるとすごく疲れるんですよね。あと、写真を見てて、『この写真、超良いな』って思うんですけど、『ここに何かあったほうが良いな?』とも思うんですよ。そこを絵で埋めていったらこうなりました」

『Make up』

ーーーこの写真はどなたが撮ったものですか?
「Yuri Horieっていうカメラマンの写真で。彼女がロンドンに行った時に撮った写真を何百枚か送ってもらって。その中から『これとこれをください』ってピックアップして。個人的には今回、『Make up』っていうのが写真に描いた作品の中で一番好きで。最初にこの写真のデータをもらった時に、『超格好良い! 何も描きたくない』って思ったんですよ。けど、世の中には素材としては凄く綺麗な人でも、ケバケバのメイクをしている人が多いから、それを描いてみようって思って。すごく良い写真なんだけども、上から描いて足してみて。外に貼ったまま雨ざらしになったステッカーみたいな感じで、荒々しく描いてみました」

ーーー一番奥に展示しているのが『eNrOll』のシリーズですね。
「これは5つで一個の作品なんですよ。『人生、進む時間は右回り、戻る時間は左回り』っていう言葉が自分の中にあって。人間って進む時は、本能的に右に回るんですけど、4つのキャンバスの作品が『MAYOERU』、『MITUKETA』、『TAKABURU』、『UKARERU』っていうタイトルで。真ん中の木で作った作品が『cloud』(=雲)で、これは天をイメージしていて。全部繋げると、迷って、見つけて、高ぶって、浮かれて。そこから戻って、また迷うっていう。人生においてこれって、一生抜け出せないループなんだろうなって。そういう永遠のループを表現しようって。それから、全部、コンタクトレンズみたいなのを着けていて、目の色が変わっているんですけど、それはSNSとかへのヘイトみたいなのも混ぜていて。SNSと現実世界の境目が分かってない人たちのアイシールドになっている。今って、SNSをずっとやっている子もいれば、何も見ないで普通に道を歩いている子もいて、現実世界がどっちにあるのか、本当に分からなくなっている時代だと思うんですよ。でも、どっちが間違っているとも言えなくて。自分が見えている色が本当は黒なのに、見える色は黄色なのか赤なのかとか。そういうことを描きたくて」

『eNrOll』シリーズ

ーーーでは最後に、今後もっとやりことはありますでしょうか?
「遊園地を作りたいですね。その先もあるんですけど、それがとりあえずの目標で。多分、ある程度のことは今の世の中、出来ちゃうので。遊園地くらいの規模じゃないと、夢としては使えないなって。それを2ヶ月だけやって、夢のまま終わらせるっていう作戦で。あと公園も作りたいんですよね。子供達も遊べるし、二十代の大人も遊べるし、さらにお爺ちゃんたちも遊べるような公園を。今、そこまで若者が興味を持つ公園ってあるのかな?って。それをやったら本当に面白いかなって。遊具に対して興味を持ったりとか。子供達もそこで社会の縮図を学ぶだろうし。そういうものがあっても悪くはないんじゃないかなって思いますね」

ーーーアートとしてだけじゃなくて、本気で公園を作りたいということですね。
「アートをやるっていうよりも、パブリックなものをただ作り続けたいだけなので。作品の方法は紙であったり、粘土であったり、何でも良いんですよね。自分がやりたいことを、周りが求めていることを、どれだけすり合わせられるかが、自分の今の課題なので。公園も同じように僕がやりたいことと、周りが求めていることが一致していると思っているから、本気でやりたいなと思っています」

米原康正氏(今回の個展『eNrOll』のキュレーター)

「JUN INAGAWAの周りと遊んでいた時、そこにコインパもいて。ああいう感じでガンガン喋ってきて。喋りもそうだし、実際見せてもらった作品もすごく面白くて。喋りと作品の二つとも一緒じゃんっていうところで、すごく気になって。今、22歳ですけど、昔の情報も今の情報もフラットで。そこを上手く編集して、すごく今のものにしている。作品もすごくデジタルだけど、アナログ感満載だし。そういう意味で、先駆者というか、すごく今を象徴するような人だったりする。大人として、こういうアーティストを世に出していかないといけないなと思って、今回のコインパの個展をキュレートしました」

【Information】

Instagram @coinparkingdelivery_art

【個展概要】

タイトル:COIN PARKING DELIVERY 個展「eNrOll(エンロール)」

会期:2020年7月17日(金)~ 8月1日(土) ※日・月・祝日休廊

開廊時間:11:00~19:00 ※最終日は18:00まで

会場:MDP GALLERY(東京都目黒区青葉台1-14-18 1F)

 

Text & Photos by Kiwamu Omae

writer: Kiwamu Omae