Katol インタビュー:日本初個展を開催! グラフィティがルーツの香港で絶大な人気を誇るサインアーティスト
2024.09.04
香港出身のサインアーティスト/グラフィックデザイナーのKatolが、田端のWish Less Galleryにて日本での初の個展を開催。日本ではあまり馴染みのない「サインアート=看板アート」とは。Katolの経歴とともに、香港のストリートアートやサインアート事情について語ってもらった。
――まずはバックグラウンドを教えてください。香港出身ですよね? 子供の頃はどんな子でしたか?
「そう、香港出身。母親が麻雀をするためによく家を空けていたから、僕はいつも家にいて日本の漫画を見て、真似して描いていた。「ドラゴンボール」とか「キャプテン翼」とか。特に人に見せることはなくて、ただ描いてただけ。そんなに人と話すタイプじゃなかったし」
――学校でアートの勉強はしたのですか?
「高校はスポーツとアートの特別校に通って、僕はアートを専攻して、週に9時間アートの授業を受けていたよ。陶芸、写真も授業にあったんだけど、アートをそんなに真剣にとらえてなかったんだ。グラフィティをやっている友達とその学校で出会って、あまり学校にも行かないで、その友達と外で中国語のグラフィティを描いてた。オルタナティブの音楽も教えてもらって、いろいろインスピレーションをもらったよ。学校ではトラディショナルなアートとデザインを学んで、他の生徒はいい成績を取るためにみんな同じようなスタイルで絵を描いていた。グラフィティを描いている友達とその他の何人かのクラスメートと塾でも絵を描いていたんだけど、そこでは友達と音楽をかけながら、自分の好きなものを描いてて楽しかったよ。塾が終わった後は、壁にグラフィティを描きに行っていた(笑)」
――その当時、グラフィティをやっている友人以外に、何か影響を受けたものはありますか?
「高校に図書館がなくて、外の図書館でCDをレンタルしていたんだけど、そこに日本のIDEAっていうデザインの雑誌があったんだ。その雑誌に載っていたMo’ Wax(注:イギリスの音楽レーベル)とかのレコードジャケットのデザインとかに衝撃を受けたよ。その頃は裏原宿のブームだったから、雑誌にいつもAPEとか日本のブランドが載ってた。香港人の若い世代は、日本のアニメからファッション、パフィのようなポップミュージックやTRFのようなダンスミュージックもみんな好きだったよ。海賊版のCDや日本のドラマのDVDをみんな買ってたよ」
――日本のストリートカルチャーについてはどうですか?
「前はNIGOで、今はサインアートをやっているから、nutsartworksが好きだよ。彼はSupremeのサインもやってる。もう、15年近く前になるけど、ネイバーフッド、ICECREAM、コムデギャルソンとかが香港の同じ通りにあったんだ。ネイバーフッドは3階建てだったんだけど、そこに描かれていたサインがかっこよくて、あとで、nutsworksってアーティストだって知ったんだ。ちなみにその通りは、今では全く違う店になってるけどね」
――学校を卒業してからはどんな仕事に就いたのですか?
「卒業したあとは、メジャーなラジオ局のWEB制作の仕事が見つかったんだ。そこでは、ラジオ番組のロゴなどを作っていた。中国語のロゴをね。学校ではパソコンでのデザインを教わってなかったから、ラジオ局の先輩からいろいろ教わった。みんなにデザイナーなのにデザインソフト使えないのか? って笑われたよ。同時に、Start From ZeroっていうクルーのDomと一緒に壁にステッカーを貼ったり、ストリートアートの活動もし始めたんだ。彼らとは展示会もやったりして忙しかったから、昼間の仕事が長く続かなくて、数ヶ月ごとにころころ変えてた。でも、どの仕事もストリートアートやポップカルチャーのデザインと少し関わっていたから、ラッキーだったよ。最後のフルタイムの仕事となったのは、テレビ局だった」
――テレビ局の仕事はどうでしたか?
「2008年の北京オリンピックの時だったから忙しかったよ。ただ、2008年なのに、まだフロッピーディスクを使っていたんだ。パソコンも一台だけ。なぜなら、外に情報が漏れないようにしないといけなかったから」
――Start from Zeroの活動も忙しかったですか?
「自分たちでアパレルを作って台湾などでも展示会をやったりして、すごく忙しかったよ。小さなショップもやって、そこで若手のアーティストの展示もやっていた。でも、活動が大きくなって会社組織っぽくなってきて、なんか違うんじゃないかなって思うようになったんだ。アパレルを作って、みんなに買って!買って!って宣伝するのも、あまり好きじゃなかった。それで、1年間、旅をすることにしたんだ」
――どこに行ったのですか?
「沖縄(笑)。あと、その頃、サインアートのドキュメンタリーを見て、そこに香港の若いサインアーティストが出演していて直接会いに行ったこともある。僕にとっては、サインアートは描いていると心が落ち着いて、瞑想のような感じだった。若い時は違法のグラフィティで警察から追っかけられたり、ストリートアートで仲間とワイワイやるのが好きだったんだけどね。壁にどれだけ自分の名前をタギングするかとか。でも、30代になってもっとひっそりと活動したいって思うようになったんだ。台湾やイギリスにも行って、いろんな世代のサインアートのアーティストにも会って、彼らからハンドライティングの文字やサインの描き方をいろいろ勉強した」
――デジタルではなく、ハンドライティングで描くことに面白さを感じたわけですね。
「Start from Zeroの時も文字に重きを置いていただけど、その時はパソコンでデザインしてステンシルで描いていた。ハンドライティングを学ぶことで、文字のデザインのことがよくわかるようになったんだ。タイポグラフィのデザインの成り立ちがわかるようになった。学校できちんとデザインを学んだけど、この頃から、他のアーティストのハンドライティングを見たり、デザインの本を買ったりして自分で学ぶようになった」
――サインアーティストは香港にたくさんいるのですか?
「ほとんどいないね。なぜなら、香港では何をおいても速さが求められるんだ。2日もかけてペイントしたら、早くしろって怒られる。賃料が高いから、レストランやショップはなるべく早く店を開けたいからね。ほとんどの人がデザインに対して理解がないし、デジタルでデザインして中国でステッカーを作った方が早く安く済むから。でも、僕はこの仕事で食べていけてるから、ラッキーだと思っている。今、香港の経済は良くないのだけど」
――今回の個展のタイトル「Error with Pride」について教えてください。
「僕には2つの顔があるんだ。ひとつはデザイナー、もうひとつはアーティスト。デザイナーの場合、クライアントは患者さんで僕は医者なんだ。彼らの問題を間違うことなく正しいやり方で解決してあげなければいけない。一方、この個展では僕はアーティストなんだ。汚くペイントをしてもいいし、何か間違えてもそれもアートになる。実際、スペルとかよく間違えるしね(笑)。商業的なデザインの仕事は繰り返しが多いから、自分がやりたいアートでリフレッシュしたかった。新しいアイディアを形にする機会でもあるんだ」
――日本での展示は初めてですよね?
「個展は初めてだけど、実は去年、大阪のアートフェアにブースを出したんだ。サインアートの作品を2点出展したんだけど、誰も止まって見てくれなかったんだ。ぱっと見、ハンドライティングかもわからないし、興味を示してくれなかった。その経験もあって、この個展では、サインアートをアートワークに昇華させようって思ったんだ。経年で色が薄くなって消えかかっている広告などの文字のことをゴーストサインって言うんだけど、今回の作品のいくつかはこれがコンセプトになっている。まず、文字を描いて、それをサンドペーパーで削ってゴーストサインのようにして、その上からまた別のサインを描いているんだ。下に何が描かれていたのか、気になるよね。若い時に描いていたグラフィティも上から消されてたりしたから、それもこのコンセプトの一部になっているかもしれないな。フレームは自分自身の過去の作品を解体したものを使っているんだ」
――それは面白いですね。元々はひとつの作品で、また新たに作品の一部になるということですね。
「(作品を指して)この木のフレームは、香港で展示したインスタレーションを使っている。香港では、たくさんのアートワークを保管するスペースがないからっていうのもあるんだ」
――コラージュの作品の方は、どのようなコンセプトがあるのでしょうか?
「自分のデザインはコラージュがもとになっていることが多くて、紙切れとかサインアートのスケッチとかを入れるフォルダーがあればいいなって思っていたんだ。コラージュで、いろんなものを調和が取れた形でまとめているんだ。コラージュは自分のデザインやアートのルーツとなった子供の頃を思い出すんだ。この中には18歳の時に初めて日本に来た時のセブンイレブンのレシートもあるよ。コラージュはとても楽しい作業だよ」
――今回の東京ステイ中にやりたいことはありますか?
「今回は2週間いるんだけども、ショッピングが楽しみだね。ショップにいくだけでもインスピレーションをもらえる。あとは、埼玉スーパーアリーナにサッカーの試合を見に行く。子供の頃、Jリーグがすごい人気だったんだ。Jリーグのゲームもみんなやっていたよ」
――日本のサッカー選手で応援している人は?
「MITOMA(三笘薫選手)!」
――これからの予定は?
「Little Thunderのアートブックのオーガナイズをするよ。彼女は香港を拠点にしているけど、日本でも大人気なんだ。僕はアート展のキュレーションもしてるんだ。Wish Lessのオーナーのロブの個展も香港でキュレーションしたんだよ」
【プロフィール】
Katol/カトル @katolone
香港のサインライター/グラフィックデザイナーである Katol は、幼少期より原宿のサブカルチャーに影響を受け、レコードジ ャケットからストリートウェアまで、あらゆるデザインに夢中に なる。香港で伝説的な人気を誇るストリートアートユニット 「Start From Zero」の創設者の一人であり、過去にはコペンハー ゲンやシドニーなど国内外でグループ展に参加。
近年知人らとクリエイティブ集団「SOCIAL NERD」を設立し、ショップのサインやブックデザイ ン、キュレーション、レコードジャケットからTシャツ、さらにはバス車体への大掛かりなペンテ ィングに至るまで、さまざまなデザイン関連のプロジェクトにも携わる。 これまでにNIKE、ニューバランス、VANS、RIMOWA、香港バス、K11、ブルーボトルコーヒーな どあらゆる企業やアパレルブランドとコラボしている。
自称「便利屋」と称し、コーヒーとランドリーの店「Coffee & Laundry」を香港のセントラルエリ アにオープンし、注目の的となる。店舗内で小規模な展示を企画するなど、キュレーターとしても 香港のクリエイティブコミュニティにおいて非常に高く評価されている。
ストリートアートからコマーシャルまで、フォントへの愛は不変と語るKatolは、香港のサイネー ジシーンにおいて最も多作なアーティストとして知られ、近年、香港でトレンドとされるサインラ イティングの再興を牽引する重要人物である。本展が自身初の個展であり、20年にわたるKatolの キャリアに新たな章が刻まれる。
【開催概要】
タイトル:Katol 個展『ERRORS WITH PRIDE』
会期:2024年8月31日(土)〜 9月15日(日)
会場:WISH LESS gallery(東京都北区田端5-12-10)
時間:木曜〜日曜 12:00〜18:00
問い合わせ:03-5809-0696
■LIVEレタリングセッション: 9月7日(日) 13:00-17:00
Photos by @tteddyl_/
writer: Atsuko Matsuda