内山崚 インタビュー:ヒップホップの精神で独自の世界を創り出す書道家
2025.04.03

小学3年生で地元の書道大会で優勝して以来、向かうところ敵なしで小中高に渡り賞を総なめしてきた書道家、内山崚。高校時代にブレイクダンスの面白さに目覚め、書道との両立に苦しみながらも、身体に染み込んだ伝統的な書の型をヒップホップの真髄であるオリジナリティの精神を取り入れることで、唯一無二のスタイルに見事に昇華させた。4月3日から表参道にてスタートする個展を前に、書道、そしてダンスへの想いを語ってもらった。
――小学生の頃にマイケル好きのおとうさんの影響を受けてダンスをはじめたそうですが、書道も同じくらいの時ですか?
「そうですね。書道は母親のすすめで7歳ではじめて、ダンスは父親がマイケルジャクソンやMCハマーを聴いていて、僕もマイケルのミュージックビデオをずっと見ていました。田舎だったので、ダンスを習うスクールなどはなかったのですが」
――遊び盛りの小学生が座って書道の練習をするのはなかなか辛そうですが。
「正直、習い事は興味なくて、書道教室は友達と遊ぶために行ってました。3年生になる頃には書道をやめたいって思っていたのですが、福岡の地元の宮地嶽神社の書道大会に参加したら優勝したんです。それで、やりたいやりたくないに関わらず、これはやめれないなと(笑)」
――優勝したということは、やめたかったけど練習はちゃんとやっていたってことですよね?
「はい。その時はさせられてたって感じですね。先生とか母親とかに上手いこと操られて(笑)。3年生で取った賞をきっかけに、ずっと賞をとり続けて、優勝しないと悔しくて…。一番じゃないと嫌だという思いで続けてました」
――それで、中高も書き続けたと。
「そうですね。高校は書道の推薦で入ったんです。書道教室の先生が、その高校の先生でもあって。東福岡高校という学校で、1学年800人以上いるようなマンモス校でスポーツも強かったですね。入ってすぐ、高校大学書道展に参加して優勝しました。スポーツのインターハイとは違って、この書道展は全国の高校生だけでなく、大学生も参加しているんです。それをスタートに書道展では優勝は当たり前みたいな感じになりましたね。学校のいい宣伝にもなりました(笑)」
――高校時代、書道では敵なしだったわけですが、将来何をしていこうと思っていましたか?
「特に考えてなかったですね。ちょうど、ダンスを真剣にやり始めて、ママチャリのカゴにラジカセを入れて、最寄駅から30分電車に乗って博多駅まで行って、昼飯代の500円を使ってロッカーにラジカセ入れて、学校帰りにそれをピックアップして、途中の駅で降りて駅前で音楽を流しながら友達とブレイクダンスの練習をするという生活でした」
――高校生で書道とダンスを両立させるのは大変だったのではないですか?
「苦しかったですね。身体を動かすのが好きだったのと、かっこいいし、目立ちたいというのもあって。なので、頭の中の90%はダンスでした。でも、書道の部活があるので、部活が終わり次第、ダンスの練習しにいくという感じでした。書道展の表彰式に行かずにダンスをしていて、退学になりそうになったこともありました。辛かったですが、それでも、部活と合宿、土日にしっかり書道の練習していました」

文部科学大臣賞を受賞した高校2年生時の作品
――卒業後はどちらの道に進んだのですか?
「大東文化大学の書道学科からぜひ来てくださいと連絡があったのですが、お断りしてダンスの専門学校に入りました。このまま大して好きじゃないことを続けて結果を出すことができるのかもわからなかったし、先が見えなかったんです。大学行って飲み会して遊んで卒業できなかったかもしれないし」
――専門学校時代はダンスと書道を組み合わせて何か創作することはあったのですか?
「学校では、ブレイクダンスをしつつ、ミュージカルやバレエ、タップなどを学んでいました。その頃、書道は僕の中では終わった感じだったので、書道のことは人には言わずにダンスに集中していました。でも、全く離れていたわけではなく、バイト感覚で地元の学校の表彰状などを書いていました」
――LAにもしばらく滞在していたのですよね?
「専門学校を卒業して1、2年ふらふらしたあと、格闘技の蹴り技やひねりなどアクロバットな要素を取り入れたトリッキングというスポーツを習うために、LAに3ヶ月くらい滞在しました」
――LAでも書道は封印していたのですか?
「路上で書いてお金をもらうようなことはしなかったのですが、紙に書いて友達にあげたら、それをタトゥーにしてました(笑) 狼とか神様とかの文字だったのですが、背中にがっつりタトゥーを入れた女の子もいました」
――書道に振り切っていったきっかけは何だったのでしょう?
「東京に出てきて、バイトを掛け持ちして生活していたら、ダンスの練習をする時間もなくなって、人とも会うこともできなくなってしまったんです。でも、お金がなかったので、書道を仕事としてやって、ダンスの時間を作ろうと思ったんです。福岡にいた時に、バイトが嫌で天神の路上で書いて売っていたので、ある時、東京でもやってみたんです。明治神宮の路上で座って書いたら、外人がたくさん集まってきて、1枚2,000円で売って、1時間で5万円くらいになりました。でも、路上はすぐ警察が来てしまうので、結局それは諦めました」
――ダンスと書道を融合することは考えていなかったのですか?
「周りからもよく言われていたのですが、実際に書いている時は踊れないので、別々の映像を組みわせる映像でしか表現できないなと。そんな時、専門学校時代の先生から、舞台で僕が書いている時に誰かが踊って、僕も最後に踊るという演出をしたいという連絡が来んです」
――そのステージでは、書道で何を表現したのですか?
「”7つの大罪”(*1)がテーマで、影と光を表現する舞台で、7つの役があり、僕も書道だけでなく、メインキャストとして「憤怒(ふんど)」の役を演じました。書道で「我慢」って書いて欲しいと言われて、音楽に合わせて、音の尺を考慮しながら、仕上げるんです。音と書道とダンスがリンクするような見せ方ですね。楽しかったです」
ーーそういう表現をもっと広げていきたいとは思いましたか?
「はい、でも、場所や環境、振付師、舞台監督等々がいないと成り立たなく、僕一人ではできないので、ダンスの現場で書道もやってますと伝えて、コミュニティを作るようにしていきました。メイクさんに書道をやっていることを伝えたら、メイベリンのイベントでダンサーたちの顔に墨で絵を描くことをお願いされたり、ダンスの現場で書道の仕事につながるようになりました。SNSで書道のことをアップすると、「リョウはもうダンスやってないんだ」って思われたりして、それが葛藤になったりはしましたが」
――今はダンスの方は?
「やってます! 仕事の比率は書道の方が大きくなってますが」
――文字を書いている時の映像を観ていると、筆が身体の一部となって踊っているように見えるのですが、ダンスと書道の共通点はありますか?
「ダンスの方の感覚と表現を書道に活かしていると思うし、書道の感覚もダンスの中に取り入れている感じはありますね。自然とそうなってきて、今は意識してよりそういった感覚が強くなっています」
――書道展などで常に優勝していたということは、賞で評価されるスタイルで書いていたという側面もありますよね?
「そうですね。高校までお手本通りで、崩さない伝統的なスタイルで書いていました。一方、自分が好きなヒップホップの歴史では、自分のオリジナリティを自由に表現して、かっこよければいいというのがあるので、自分の中の型にハマった書道をぶっ壊して、僕にしかできないもっと自由なスタイルで表現するのは、ヒップホップからの影響かなと思います。(伝統的な型が)身体に染み込んでいるので、崩すのは本当に大変でしたけどね」
――今の文字の先が細長く踊るように伸びていて、動きのあるスタイルは自然と出来上がった感じですか?
「自然とそうなっていきましたね。なので、1年前のスタイルは違うし、本当に全然違うんですよ。毎年自分の書を見返すと、違うなーと。二年前も違いますし。常に変化しています。少しづつ、僕が表現したいことが形になっていると思います。来年また僕の書は変わっていると思います」
――4月3日から、tHE GALLERY OMOTESANDOでの個展がはじまりますが、キュレーターのYONEさんとはどのような経緯で出会ったのですか?
「東京に出てきて2、3年経って、表参道で書道教室をやっていた時に、そこの場所を貸してくれていた人がYONEさんの知り合いで、話は聞いていたんです。YONEさんのインスタもフォローしていたし、僕のアカウントもフォローしていただいていて。それで、ようやく半年くらい前に、トリッキングの世界チャンピオンの知り合いがYONEさんのことを紹介したいとのことで、tHE GALLERY HARAJUKUまでご挨拶に行きました。そのあと、WEGOのYONEさんの企画で取材していただいたりしているうちに、展覧会やろうってことになったんです。ほんと、ここ数ヶ月の話です」
――今回の個展についてうかがいます。タイトルは「言霊」ですが、どんなコンセプトなのでしょう?
「前回の展覧会が「今の自分」っていうタイトルで、 僕がこれからどういう風になりたいのかとか、目標だったり、今の自分を表現したのですが、 今回は2025年という年をなるべくいい言葉で僕なりに表現して、それが現実に起こればいいなと。言葉には力があるので」
――何点くらい展示する予定ですか?
「15点くらいです。自分の願いや今起きている社会現象を一文字で表現しました。でも、マイナスな要素は全くなくて、全てポジティブな言葉に落とし込んで表現しています。空間にそれらの文字があることによって、いい方向に引っ張られていくって思っています。ちょっとスピリチュアルに聞こえるかもしれないですが」
――自分の願いや目標などの言葉を毎日見ていると、脳のRASっていうシステムが、無意識のうちに必要な情報を集めたり、願いを叶える方向に自分を引っ張っていってくれますからね!
「そうですね。だからいい言葉をポジティブに表現してみました」
――ダルマなどの立体に文字を書いた作品もありますね。
「知り合いにダルマに書いたらいいんじゃない? って言われて、僕もやりたいなと思っていたので。白いダルマを買ってきて、黒く塗って作りました。まだ、何点出すかまでは決めてないんですけど、ネットでは販売しないで、展覧会に来てくださった方しか購入はできないようにします」
――ライブで書くことも多いですが、どんなシチュエーションで書いてみたいですか? 上空とか、水中とか。
「高いビルの壁面です。落ちたら死んでしまうような高さで、空中でぶらぶら揺らされながら書いてみたいです。あとは、この車に書いちゃっていいの? というような車に書きたいですね。実は、ポルシェさんのイベントに出演することになり、車にという話をしていたのですが、今回はアクリルに書くことになりました。4月19日にポルシェセンター青山店の広場でパフォーマンスします」
*1)キリスト教において人を死に至らしめる七つの欲望。
【開催概要】
タイトル:RYO UCHIYAMA SOLO EXHIBITION “言霊 -KOTODAMA-”
会期:2025年4月3日(木)〜 5月6日(火) *月・火曜日(4/29、5/5、5/6は開廊)
時間:12:00〜19:00
writer: Atsuko Matsuda