INTERVIEW

HOME > INTERVIEW > Atelier506 > Atsuko Matsuda > ヒップホップ、アート、サンフランシスコ。ヤーロウ・スラップスの表現の原点

ヒップホップ、アート、サンフランシスコ。ヤーロウ・スラップスの表現の原点

2026.10.19

サンフランシスコ生まれのアーティスト、ヤーロウ・スラップス。ヒップホップやアートが身近にある環境で育ち、ラッパーとして活動する一方、ペインティングやフィルムなどにも表現の場を広げてきた。湯島のギャラリー、Sho+1で開催中の日本初個展「Breaking News」では、ニュース速報を思わせる言葉とともに、現代社会の矛盾や人々の生き方を描いている。表現の原点から作品に込めた思い、自分らしく生きることまで話を聞いた。


アートが身近にあった街で、ヒップホップから始まったキャリア

 

ーーアーティストとしてのキャリアはどのように始まったのですか?  サンフランシスコ生まれですよね。

「はい、サンフランシスコ生まれです。友達が「ラゲッジ・ストア・ギャラリー(Luggage Store Gallery)」というギャラリーをやっていたんです」

ーーどんなギャラリーなのですか?

「
マーガレット・キルガレンやバリー・マギーといったミッション・スクール(サンフランシスコの芸術運動)のアーティストや、ベイエリアの様々な人たちの作品を展示しているような場所でした。なので、常にアートが身近にある環境だったんです。でも当時は「アートの近くにはいたくない」と思って、音楽を始めました」

ーー音楽をやっていたんですね? インスタグラムに自身の楽曲と思われるものを作品と一緒に投稿されていたので、ラッパーとして活動していたこともあるのかなと。

「ええ。「GoGetters」というグループをやっています。あと「The Final Four」や「A and D」も。それぞれ別のグループです」

ーー今もリリースしてますか?

「ええ、もちろん。アルバムもたくさん出しました。それから足首を折ってしまって」

ーーステージの上の事故ですか?

「いや、普通にある日折ってしまって。「さて、どうしよう?」と考えて、絵を描き始めたんです。骨折がペースを落とすきっかけになったんですよね。おかげで、たくさんのアイデアをアートとして形にすることができたんです」

ーーなるほど。ラッパーとして、誰にインスピレーションを受けましたか?

「ラッパーとしてはベイエリア全体ですね。例えば、マック・ドレー(Mac Dre)、トゥー・ショート(Too $hort)、E-40とか」

ーー90年代ですね!

「ですね。あとは、コブラ・ハスラーズ(Cobra Hustlers)、2Pac、アンドレ・ニコティナ(Andre Nickatina)とか」

ーーベイエリアのハイエログリフィクス(Hieroglyphics)は?

「ハイエログリフィクス!  最高!  サウルズ・オブ・ミスチーフ(Souls of Mischief)の『93 ‘til Infinity』のリミックスも作りました。今晩(*注 レセプションの日)ラップしてみようかな」

 


「ラゲッジ・ストア学校」で育まれた、表現の原点


ーーすばらしい。最初は服に絵を描き始めたと聞きました。

「そうです。服に描き始めたら、みんなから「なんで服に描いているの?キャンバスに描けばいいのに」と言われて」

ーーそれは何年前のことですか?

「2011年か2012年ですね」

ーーアートの学校には行ったのですか?

「「ラゲッジ・ストア学校」ですね(笑)」

ーー友人のギャラリーですね(笑)。なるほど。

「シティ・カレッジにも1年間通いました。美術史を1年やりました。それから通うのをやめちゃったんですが、「Aマイナス(成績)」をとったんですよ。

ーーAマイナス、凄いじゃないですか。

「人生で初めてとった「A」が美術史だったんですが、そのまま行くのをやめました。古典的な画家たちの作品を見るのは面白かったですね。ただ、アート自体は素晴らしいと思いますけど、アート界(美術業界)はめちゃくちゃだと思いますね」

ーー確かにそうですね。

「アート自体は素晴らしいんです。でも、ただの情熱であるものを商品化しようとした途端、常におかしなことになってしまう。だから、そういうことについても作品で語りたいですし、愛や食べ物、その他の素晴らしいものなど、自分が好きなあらゆる要素をたくさん作品に取り入れようとしているんです」

ーーなるほど。

「(スマホの中の作品を指差して)これはハリエット・タブマン(Harriet Tubman)のひいおばあちゃんです」

ーー奴隷解放運動家としてのハリエット・タブマンは知っていますが、彼女のひいおばあちゃんのことは知らなかったです。

「彼女のおばあちゃんのことはあまり知られていませんが、名前はモデスティ(Modesty)といいます。情報があまり残っていないんです。だから、彼女が世界を駆け抜けていく姿を表現しようとしました」



「ニュースを再構築したい」——ドキュメンタリー制作から生まれた「Breaking News」


ーーところで、今回の個展のタイトルにもなっていますが、あなたが作人の中で描いている「ニュース速報(Breaking News)」のようなコメントがとても興味深いと思ったのですが。ニュースの画面の下に流れてくるような、ニュース速報のスタイルで作品にコメントを描くようになったきっかけは何ですか?

「実は今、『Life in a Strange Land』という映画を撮影しているんです。その映画の中にニュースのセクションがあって、Fox Newsみたいな、架空のフェイクニュースをやっているんです。そこからニュースのことや、自分たちに投げつけられる情報についてすごく考えるようになって、「ニュースを再構築したい」と思ったんです。想像力豊かな現実のコメントや思考とか、ニュースについては語りたいことがたくさんあるんですよ」

ーー社会的な課題も取り上げようとしていますよね?  今回の作品群の中で、一番強いメッセージが込められているものや、人々に最も伝えたい作品はどれですか?

「男が赤いバッグを持っている作品ですね。社会について多くを語っていると思います」

ーーあの作品にはどういう意味があるのですか?

「アメリカのヒップホップカルチャーでは「get the bag(バッグを手に入れろ)」という言い回しがあって、「金を稼げ」という意味なんです。グッチのバッグでもバーキンでも、あるいは仕事やお金のことも「バッグ」と呼びます。その作品では、男がバッグを持って立っていて、その下で誰もがそのバッグのために争ったり、キスして媚びを売ったり、あらゆることをしている。限られた数少ないポジションを巡って、僕たちがみんな競争している様子を表しています。そしてその隣では、人々が呼吸をして心を解放するためにヨガをしているんです」

ーー心を解放しようとしている人たちと対照的ですね。

「それから農業をしている人々も描いていて、僕たちには色々な選択肢があるんだということを示しています」


自分たちのあり方は、自分たちで決める


ーー特にサンフランシスコは生き方に選択肢がある街ですよね?  様々な人がいて、それぞれの生き方があって…。

「サンフランシスコでは自分らしくいられるんです」

ーーヒッピー運動が始まった場所でもありますしね。

「ストレートでも、ゲイでも、ギャングスターでも、IT系(テッキー)でもいい。ありのままの自分でいることが許されている。でも僕たちが生きている今の世界は、ありのままの自分でいることを望まないような社会ですよね」

ーー世間は「こうあるべきだ」「あああるべきだ」と言ってくる。

「そう。だからアートを通じて「うるさい、自分たちのあり方は自分たちで決める。俺たちは俺たちだ」と言いたいんです。他人に決められる筋合いはない。みんな何よりも素晴らしい存在で、光なんです。すごく輝いているんですよ」

 


日本で感じた思いやりと、ものづくりの丁寧さ


ーー本当に同感です。では、最後の質問です。日本に来るのは3回目で、展示を開くのは今回が初めてですよね? 日本のどんなところが好きですか? 日本の印象や気に入っているところなどを教えてください。

「日本が好きな理由は、みんなすごく思いやりがあると感じるからです。お互いを気遣って、すべてが上手くいくように心を配っている。それと、すごく小さな物でも本当にユニークに作るところが好きですね。すべてが個性的で、とても丁寧に工夫して見せられている。アメリカではこんなの見られませんよ。自転車を外に放置してドリンクとか飲んでたら盗まれますからね。アメリカはもっと無法地帯っぽいんです。でも、まあバランスですよね。だから、日本は本当に素晴らしいと思います」

ーー滞在の残りの期間は、どんな計画を立てていますか?

「残りの滞在期間は、もっと静かな場所に行って、日本のより伝統的な部分を学んだり、見たり、自然の中に身を置いたりしたいですね。大都市も素晴らしいですが、本当の一番良い場所は大都市から2時間ほど離れたところにあるといつも感じています」

ーーまさにそうですね! どの国でも。ありがとうございました。

「ありがとうございました」

 

【プロフィール】

ヤーロウ・スラップス
アメリカ・サンフランシスコ生まれ、同地を拠点に活動するアーティスト/キ ュレーター。 ベイエリア特有の多文化主義やスラップスの作品は、現代のポピュラーカルチ ャー、美術史の文脈、そして人種・階級・社会情勢に対する独自の批判的洞察 が交差する点に位置しています。

サンフランシスコの鮮烈な DIY カルチャーと多様なグラフィック表現の中で育 った彼の絵画スタイルは、あえて緻密さを抑えた直感的で素朴な筆致(「キッ チンテーブル」美学)と、アクリル、エアブラシ、オイルスティックなどを組 み合わせた豊かなテクスチャーを融合させています。 彼の描く作品群には、歴史的人物や時代の象徴、日常生活の一コマ、そして風 刺の効いたテキストやグラフィック要素(ニュースのテロップや速報バーな ど)が巧みに組み込まれています。重厚で批評的なテーマを扱いながらも、作 品全体には特有のユーモアと温かみ、そして社会やコミュニティに対する深い 「愛」が根底に流れており、観客に押し付けがましさを感じさせることなく、 私たちを取り巻く「今」の社会構造について自発的な思考を促す点が彼の作風 の真骨頂です。

アーティストとしての活動にとどまらず、DIY スペースやギャラリー(Swim Gallery)のキュレーションを主導し、既存のアートシーンで見落とされがちな アーティストやコミュニティと深く関わり続けています。また、70 名以上のア ーティストや料理人を巻き込んだ『Ramen Forever』をはじめとする自主制作 プロジェクトや、映画制作など、領域を越えたマルチメディアな表現活動を行 っています。

これまでにロサンゼルスの New Image Art やデ・ヤング美術館(レジデン ス)、Guerrero Gallery などで個展・グループ展を開催。


【開催概要】

タイトル:ヤーロウ・スラップス日本初個展「Breaking News」

会期:2026年10月9日(金)–11月14日(土)

会場:Sho+1 (東京都台東区上野1−4−8  上野横山ビル1F)

時間:12:00–18:00

休廊日:日曜・月曜・祝日

Instagram: https://www.instagram.com/shoplus1/

Special Thanks: 米原康正( https://dayonegallery.com/ )

writer: Atsuko Matsuda