ワルシャワから東京へ。ポーランド版「VOGUE」で最も有望な若手デザイナーの1人に選ばれたヤン・F・ホドロヴィッチが描くクリエイターのためのワークウェア
2026.08.24

ポーランド発のファッションブランド「JAN/F/CHODOROWICZ」を手がけるJan F. Chodorowicz(ヤン・F・ホドロヴィッチ)。異なる文化の中で育ち、ロンドンやニューヨークで学びや経験を積んだ彼が提案するのは「クリエイティブな人々のためのワークウェア」だ。この夏、初めて来日し、金沢でのPOP UPを皮切りに約1カ月滞在。米原康正(YONE)との出会いから、東京では寿司職人や書道家、ラッパーなどさまざまなクリエイターと交流し、日本から新たな刺激を受けている。8月28日に米原が手がけるイベントを控えるヤンに、ブランドの原点、日本で感じたこと、そしてこれからについて聞いた。
金沢で開催したPOP UPからはじまった初めての日本滞在
ーー今回が初めての日本だそうですね。どのくらい滞在予定ですか?
「そうなんです。初めてです。7月30日に到着して、1ヶ月間丸々滞在する予定です」
ーー長期滞在ですね。ちょうど2週間くらい経っていますが(インタビュー時)、日本はどうですか?
「大好きになりました。まず東京に着いて1日だけいて、それからすぐに金沢へ向かいました。金沢でPOP UPを開催したので、ほぼ1週間滞在しました。 日本を知るための、とても素晴らしい入口になりました。東京よりもずっと穏やかで、ずっとこぢんまりとしていて。 とても気に入りました。綺麗だし、人もそれほど多くなく、食べ物も美味しかったです。 金沢の街並みはベージュやグレー、白といった色合いが中心ですが、タイル、金属、木など非常に興味深いテクスチャー(質感)があふれていました。そこには「美」に対するとても深い感謝の念が見て取れました」
ーー金沢でのPOP UPについて少し説明していただけますか? 開催した経緯など。
「POP UPは、私の顧客の一人がオーナーを務めるブティックで開催されました。 以前、大阪の『VISITFOR』というセレクトショップで、彼女が私のブランドのトップスを気に入って購入しようとしたのですが、あいにく在庫切れでした。 それで、インスタグラムで私に直接連絡をくれ、私がそのトップスを送ったところ、彼女が金沢でブティックを経営していることが分かり、今回のPOP UPを企画してくれたのです。 売上の面でも成功しましたが、それだけでなく、顧客に直接会い、私のブランドに反応してくれるのがどのような人々かを知ることができたのは、本当に興味深いことでしたね」
ーーブランドのメッセージはうまく伝わりましたか?
「 私のブランドのコンセプトは、プロフェッショナルやクリエイティブな人たちのためのワークウェア(仕事着)を作ることなんです。そのメッセージが日本の顧客にどのように響くかを実感することができました。 建築家、ギャラリーのオーナー、花屋を営んでいる方々などが来てくれました。 私はクリエイティブな人たちに強く惹かれますが、それはアーティストやデザイナーといった限定された人々である必要はありません。それだけではターゲットとして小さすぎるので。 クリエイティブとは、むしろ姿勢や人生へのアプローチのようなものだと思います。その創造のプロセスを助ける存在でありたいと思っています」
ーーなるほど、創造することへの姿勢ということですね。 ある意味、誰もが自分なりのクリエイターだと言えるかもしれませんね。
「その通りです。みんな何かしらの価値を想像しているわけですから」

金沢でのPOP UP
異なる文化で育まれた美意識と「ワークウェア」の原点
ーーでは、あなたの背景について伺わせてください。 ポーランドで生まれ、お父様のお仕事の関係でいくつかの異なる国で育ったとのことですが、成長期に異なる国で暮らした経験は、あなたのスタイルや美の感覚、デザインの見方にどのような影響を与えましたか?
「そうですね、まず、多くの異なる場所で育ったことで、間違いなく異なる文化、人々、伝統、そして異なる美の感覚に対して心が開かれました。 私の美の感覚がこれほど明確である理由は、多くの異なるものに触れてきたことで、『自分の本当の美の感覚』を見極めることができたからだと思います。 また、異なる国で育ち、人々がどのように服を着ているのかを見てきたことは、私に大きなインスピレーションを与えてくれました。建築やアートからインスピレーションを得るデザイナーもいますが、私は服そのものと、それを着る人々から刺激を受けます。 父が大使だったので、彼のワークウェアはビジネススーツというヨーロッパのスタイルでした。 ですが、例えば中東に住むと、服の着こなしがもっと軽やかで、体に巻き付けるようなスタイルだったりと、全く異なるのです。 私は人々がどのように服を着るかにとても興味があります。だからこそ、ここ日本に来て、自分の服がどのように受け入れられるかを見るのがとても楽しみなのです。日本の人々がどう着るかを見たいですね」
ーー具体的にどの国で育ったのか教えてもらえますか?
「生まれはポーランドですが、ジンバブエで育ちました。 それからシリアに住み、その後しばらくポーランドに戻りました。 高校の最終学年と最初の学位取得はイスラエルで過ごしました。 その後、ニューヨークに少し滞在し、ロンドンへ行き、今はまたポーランドに戻っています。 アフリカとジンバブエには5〜6年、シリアも同じくらい、イスラエルには5年住んでいました」
ーーポーランドの外での生活がかなり長かったのですね。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズで学び、NYのマーク・ジェイコブスでインターンとして働いたことがあるそうですが、それらの経験は今のデザインにどう影響していますか?
「 セント・マーチンズでは、創造的なプロセスや表現方法、徹底的なリサーチや、自分自身のクリエイティビティを試し、実験してみることにについて学びました。 一方、マーク・ジェイコブスでは、そのスキルをいかに商業的に成立するコレクションに応用するかを学びました。 創造性を維持しつつ、それをランウェイショーや製品、ルックブックという形に落とし込む方法を知る、非常に良い組み合わせの経験でした」
ーー自身でブランドを始めるのに必要なことをすべてそこで学んだのですね。
「自分のブランドを持つことはずっと夢でした。 クリエイティブな自由がある反面、顧客のニーズなども考慮しなければいけないので、よい学びになりました」

ワルシャワの自宅のアトリエ
ーー『ワークウェア』というコンセプトは、ブランドを始めた当初からあったのですか?
「セント・マーチンズの修士過程で制作したコレクションの時からです。修士課程のコレクションは『ソーシャリスト』というタイトルでした。 ポーランドの工場で働く女性たちのワークウェアの世界と、ソーシャライト(社交界で活動する上流階級出身の人たち)の世界を融合させるという試みでした。 リー・ラジヴィルやジャッキー・ケネディのような人々のワードローブを、クチュール対ワークウェアとして並置したのです。 そこで今のブランドの象徴である、フランスの伝統的な作業着の上着に由来する『ワークウェア・ブルー』という色も見つけました。これがブランドのシグニチャーとなっています」
ーーヤンさんにとってワークウェアとは?
「さきほども話したように、私は人々がどのように服を着るかにとても興味があるんです。基本的には全ての服がワークウェアとも言えますよね。私の父の場合はスーツだし、工事現場の人はオーバーオールかもしれないし。エプロンがワークウェアの人もいるかもしれないですよね。私にとってワークウェアは、服がどのように仕事の助けになるかという探求です。 ポケットやコントラストの効いたステッチなどの実用的な要素を装飾としても活用しています。 また、カラビナもブランドのシグネチャーですが、機能的に使うこともあれば、単なる装飾として文脈を変えて使うこともあります」
ーー先日お会いした時に、ガラスで作られたカラビナの写真も見せてもらいましたよね。
「ええ、ガラスだと強度がなくて使えないので、皮肉な表現なのですが(笑)」
ーー先ほどのワークウェアそのものだけでなく、それを着る人々から刺激を受けるというコメントがとても興味深いと思いました。具体的にどのような人からインスピレーションをもらいましたか?
「はい、もちろんです。服を単なる衣服以上のものにするのは、着こなす人々自身だからです。私の修士課程ののコレクションは『Art Wear』というタイトルで、創作活動のためにワークウェアを着る女性アーティストたちから着想を得ました。チャーリー・ポーターの著書『What Artists Wear(アーティストは何を着るか)』で、あるアーティストが『アートは私の労働である』と語っています。つまり、アートは彼女にとっての『仕事』なのです。着る人の仕事や生活を支えている服からインスピレーションをもらっているのです」

ワルシャワのショールーム
米原康正との出会いから広がった東京での新たな展開
ーー今回、8月28日に開催する日本でのイベントを手がけるYONEさんとはどのように出会ったのですか?
「 私のブランドマネージャーであり、SUPERU agencyの創設者のアレクサンドラ・ヤニエツを通してです。10代の頃にポーランドで出会ったのですが、彼女は今、日本で暮らし仕事もしていて、YONEを紹介してくれました。東京のクリエイターたちとも繋がっていて、日本のクリエイティブな世界は、信頼関係を築くことに重きを置いていて、欧米のように即席的につながるのではなく、ゆっくりと時間をかけて信頼を醸成する文化があると教えてくれました。「先輩」という言葉の意味も。 金沢のクライアントとも2年前からメールのやり取りを重ね、今回のポップアップの成功に繋がりました。 YONEは、本当に興味深いクリエイターです。彼が発信し続けているストリートカルチャーや彼独自の美学には、世界中の多くの人が惹きつけられていますよね。ありがたいことに、寿司職人や書道家、「超⭐️ヤンキース」という若手のラッパー二人組など、私ひとりだったらなかなか会えないようなクリエイターたちを何人も紹介してくれました。『寿司を握ること』さえもクリエイティブというのは、本当に美しいことだと思います」
ーー今回、日本でイベントを行うことをどう感じていますか? 日本の人たちに、JAN/F/CHODOROWICZのどんなところを見てほしいですか?
「今回の日本でのイベントでは、私のブランドだけでなく、ポーランドの伝統や職人技も知ってほしいと思っています。 19世紀からある最高品質のポーランド産リネンのPOP UPも同時開催します。ポーランド人シェフ、DJ、アートの展示もフィーチャーします。 ポーランドのデザインや工芸といった、より広い文脈の中でブランドと私自身のことを知ってもらうことを期待しています。また、ポーランド広報文化センターの後援も受けています。今回、日本の人たちやクライアントが私の作品にどう反応し、それをどうスタイリングして着こなすのか、そこに強い関心を持っています。彼らがデザインだけでなく、その背景にあるストーリーに対しても深い理解を持ってくれていることに感動しているので。今回のイベントが大きなものになり、メディア関係者やショップの方々がたくさん来てくれる予定なので、とても嬉しく思っています。これが、多くの新しくエキサイティングなことの始まりになることを心から願っています」
ーー今回は何種類くらいのスタイルを展示する予定ですか?
「2027年春夏コレクションのアイテムを展示します。主にジャケット、ドレス、ショーツ、バッグなどです。アイテム数はかなり多くなる予定です。というのも、金沢のポップアップが非常に成功して在庫が売れてしまったので、今はワルシャワで必死に追加の制作(縫製)をしているところなんです(笑)。今、さらに多くの製品を作っている最中です。さきほど言ったように、ポーランド・リネンの製品もいくつか用意して、彼らのブランドについても紹介する予定です」
ポーランドから日本へ。JAN/F/CHOROWICZのこれから
ーー今、最もインスピレーションを受けているものはなんでしょう?
「今は主に、日本で見かけるさまざまなテクスチャー(質感)からインスピレーションを受けています。 今シーズンは『家(ホーム)』という概念もインスピレーションの一つでしたが、リネンという素材そのものからも大きな影響を受けています。 素材に対して非常に触覚的なアプローチを試みており、来シーズンもポーランドのリネン会社との協業を継続する予定で、実は、デニムのように見えるリネンという、非常に面白い素材を開発しているんです。 素材はリネンですが、色や質感が本当にデニムそっくりです。 デニムと同じ織り方で青みがかったトーンをしていますが、リネンなので通気性が良く、とても軽いんです。 デニムは私のデザインの中でとても重要なんです。あとは、ここ東京でよく見かける小さなトートバッグにもインスピレーションを受けています。 本当に小さなバッグで、お弁当を入れたり、ジムに持っていったりしているのを見かけるのですが、 ヨーロッパにはないサイズ感なんです。小さくても必要なものがすべて収まる、その機能性の高さが素晴らしい。 今、そのようなバッグも作ってます」

ーー日本のワークウェアはどうですか?
「日本の本物のワークウェア(作業着)にも惹かれています。飲食業やサービス業の人たちが着ているエプロンなどは非常に美しいですね。 制服が文化の大きな部分を占めているのは、私にとって大きなインスピレーションになります」
ーーこれからブランドでやってみたいことはありますか?
「10月にまた別のイベントのために東京へ戻ってきます。 単に年に一度日本に来てポップアップをするだけでなく、ここでしっかりとブランドを拡大していきたいと考えています。 先ほども言ったように、日本の市場は私のブランドと深く共鳴していると感じるからです。 ここで人間関係を築き、それを大切に育てていくことで、素晴らしいことが起こるのを期待しています。 日本の市場についてはまだ学ぶべきことがたくさんありますが、同時に、私がここへもたらすことができるものもたくさんあると信じています。私は外交官の家庭で育ったので、自分の中に一種の愛国的責任感のようなものがあるんです。 自分の物語を、常にポーランドのデザインや工芸という文脈の中で伝えていきたいと考えています。 これまで、ガラス工芸家や数年前のシルクバンダナのデザイナーなど、常にポーランドのアーティストとコラボレーションしてきました。 そして、今シーズンは初めて日本のアーティスト(グラフィックデザイナーやイラストレーター)ともコラボレーションして、バンダナ(シルクスカーフ)を制作する予定です。 デザインは、ブランドの象徴である『カラビナ』のディテールと、私のシグネチャーカラーであるブルーに焦点を当てたものになるでしょう」
【プロフィール】

JAN F. CHODOROWICZ
Jan F. Chodorowiczは、ワルシャワを拠点に活動するファッションデザイナー。外交官の父のもと、幼少期をアフリカや中東で過ごし、異なる文化や社会に触れながら育った経験が、現在のデザインにも影響を与えています。
テルアビブのShenkar Collegeでファッションデザインを学び、ロンドンのCentral Saint Martinsで修士課程を修了。Ania Kuczyńska、Marc Jacobs、Grace Wales Bonnerでの経験を経て、Central Saint Martinsの卒業コレクションを自身のブランドへと発展させました。
2022年にワルシャワでJAN/F/CHODOROWICZを設立。ワークウェアを現代のユニフォームとして捉え直し、機能性や日常性をベースに独自の視点を加えたコレクションを発表しています。
Instagram: @jan.f.chodorowicz
writer: Atsuko Matsuda
