フィリップ・コルバート インタビュー:2月16日まで表参道で個展を開催中! 自身のアルターエゴであるロブスターの視点で時空を超えた世界を描くアーティスト
2025.02.04
真っ赤なロブスターのアルターエゴ(分身)で知られるロンドンをベースに活動するマルチアーティスト、フィリップ・コルバート。現在、表参道のtHE GALLERY OMOTESANDOにて個展を開催中だ。年明け早々にお披露目されたマカオでのプロジェクトも話題になったフィリップにオンラインでインタビューを行った。
――今はロンドンですか? 先日、マカオのアートイベントのオープニングに参加されているニュースをネットで見ました。
「マカオからロンドンに帰って来たよ。今回はロンドンで予定があったので、日本に行けなかったんだ。東京が恋しいよ」
――マカオでのアートイベントについて教えてください。
「マカオの街全体に僕のアートを展示するイベントだったんだ。大きなバルーンの彫刻が街の中や美術館に展示されて、いくつかは、今後、永久に展示される。マカオのサンズホテル系列のベネチアン・ホテルとザ・パリジャン・マカオにも作品が展示されているよ」
――マカオのアートシーンはどうですか?
「正直言うとマカオのアートシーンはまだ小さいけど、クールな感じだよ。大きなホテルが展覧会の予算を持っているから、アーティストを招聘して大きな彫刻を展示したりしている。マカオ政府も街にアートを展示することを推進しているんだ」
――では、フィリップさんのバックグラウンドについてうかがいます。生まれ育ったところと環境について教えてください。
「ウィスキーの国、スコットランド生まれ。ウィスキーといえば、つい最近、ジョニーウォーカーとコラボレーションをしたよ。ボトルのデザインをしたんだ。スコットランドはそもそもポップカルチャーとは縁遠くて、さらに僕は田舎で育った。でも、スコットランドは素晴らしい自然の景色が広がっているし、神話やロマンティックな歴史、物語がある国なんだ」
――10代の頃はどんなことに興味があったのですか?
「アートにはとても興味を持っていたよ。ニルヴァーナとかのグランジミュージックも好きだったね。いくつかのバンドに共感してファンになったりして、音楽は自分のアイデンティティの1つでもあったね。17, 18歳くらいになると哲学に興味を持つようになって、特にニーチェの本にとても影響された。通っていた学校が古いスタイルのところで、生徒も先生も暴力的な感じだったから、あまり馴染めなかった。だから、学校では静かにしていて、頭の中でいろんなことを想像しているような少年だった」
――それでニーチェにハマっていったんですね。
「そうだね。自分のアイデンティティが自分の周りの人間たちで作られているような気がして、自分自身をそのカテゴリーの中に入れていた。それで、ニーチェを読んで目覚めて、自分のアイデンティティを自分で創造するようになったんだ。アーティストになるのに大切な一歩だったと思うよ。その後、セントアンドリュー大学に入って哲学を勉強した」
――大学は哲学を専攻したとのことですが、絵を描き出したのはいつですか?
「先日、ロンドンで開催しているゴッホの展覧会に行った時に、よく向日葵の絵を模写して絵の練習をしていたことを思い出したんだ。19歳くらいの時かな。向日葵のコンセプトは僕にとって今でも大切なものなんだ。僕のアートは向日葵が持つ生き生きとしたエネルギーや色彩のパワーへのオマージュだって時々コメントしてるんだ。ゴッホ展に久しぶりに再訪したことで、彼の絵画が自分にとってどれだけ重要か思い知らせてもらった。ゴッホの絵における彼のアイデンティティの強さ、そして、向日葵の持つパワーや純粋さにとても影響を受けたよ。哲学を学ぶことは、デュシャンやウォーホールなどのポップの哲学を引き出すのに役に立ったと思う」
――「ロブスターになった時に自分はアーティストになった」とコメントしていますが、ロブスターになったきっかけは?
「子供の頃、両親がよく海辺に連れて行ってくれて、ロブスターがエイリアンみたいで魅力的に見えたんだ。僕の想像力をかりたてたんだよね。スコットランドで育ったからディズニーランドにも行けなかったし。だから、自然界が僕にとってのファンタジーの世界だったんだ。アートの歴史でも、ダリなどシュールレアリズムのアーティストがロブスターにハマってシンボル的に使っているのを知った。それで、ポップカルチャーに興味を持つようになってから、いたずら書きで赤いロブスターの絵を描くようになったんだ。ロブスターの絵が入った服も着るようになった。そしたら、みんなが僕のことを”ロブスターマン”って呼ぶようになったんだよ。卵焼きの絵が入った服をいつも着ていたこともあったよ」
――ロブスターとアートについて調べていたら、いくつかの日本の浮世絵にもロブスターが描かれているのを発見しました。世界中の絵の中のロブスターの隣には、時代を問わず、タコが描かれているのも面白かったです。
「浮世絵は日本独自のインクを使って描かれていていいよね。タコはロブスターを食べるから彼らの天敵なんだよ。古代では、タコとロブスターとウツボの三角関係は、”死”を意味したんだ。なぜなら、タコはロブスターを食べて、タコはウツボに食べられるからね。古代ポンペイのとても貴重なモザイクにタコとロブスターが戦っている姿が描かれていて、ナポリ国立考古学博物館に展示されているんだ。実は僕はその博物館で展示をして、そのモザイクの横に自分のロブスターとタコの作品を飾ったんだよ。そんな素晴らしい博物館で展示ができて嬉しかったよ」
――なぜ、人々はロブスターに魅せられるのでしょうか?
「真っ赤な色で描かれるこのキャラクターは、非現実的なエイリアンのようなものを表しているんだ。現実では真っ赤なロブスターは死んでいるロブスターだから、絵の中では”死”を表すシンボルなんだ。ロブスターはエイリアンみたいだから、みんな好きなんだろうね」
――東京での展示について教えてください。キュレーターのYONEさんからずっとフィリップさんについて聞いていました。今回、展示をやることになったきっかけは?
「2018年だったと思うけど、YONEとは日動画廊で日本で初の個展を開いた時に初めて会って、そこが始まりだね。」
――今回の個展のコンセプトはありますか?
「僕の様々な作品を観ることができる展示だよ。バスキアにインスパイアされたペイントが背景にある作品があったり、ロブスターを過去のものと組み合わせて新しいものを作り出すことで、過去の歴史と僕との対話を表現しているんだ」
――日本のアーティストでチェックしている人はいますか?
「いるよ! 何回か前に日本に行った時に、ラッキーなことにソラヤマ(空山基)に会ってランチをする機会があったんだ。彼にロブスターのキャラクターをプレゼントして、彼もロボットをくれた。彼は素晴らしいポップアートのアーティストだと思う。最近ではムラカミ(村上隆)がロンドンにいる時に友達に紹介してもらって会った。もっと日本に滞在していろいろ観たいね」
――今手掛けている作品があれば教えてください。
「『Lobsters』ってタイトルの子供向けのアニメを作ってる。僕の絵に出てくるキャラクターをアニメにしてストーリーを語るんだ。大人だけでなく、全ての人にアートを届けたいんだ。日本にはたくさんの素晴らしいアニメの作品があるから、もっと日本のアニメについて学びたいと思っているよ」
――最後に日本のファンにメッセージをお願いします!
「日本に早く行きたいよ。日本はいつ行ってもインスピレーションをもらえる所だからね。2年くらい前に軽井沢で個展をやったんだけど、山に登ったりいい時間を過ごした。次回はもっといろんな土地に行ったみたいね」
【開催概要】
タイトル:Philip Colbert exhibition「PHILIP COLBERT」
会期:2025年1月24日(金) 〜 2月16日(日) *月・火曜 休廊
会場:tHE GALLERY OMOTESANDO (東京都渋谷区神宮前5-16-13 SIX HARAJUKU TERRACE)
時間:12:00 〜 19:00
writer: Atsuko Matsuda