INTERVIEW

HOME > INTERVIEW > Atelier506 > Atsuko Matsuda > ハワイ発のミューラルフェス、POW WOW HAWAII創始者のジャスパーにインタビュー

ハワイ発のミューラルフェス、POW WOW HAWAII創始者のジャスパーにインタビュー

2017.08.08

壁に絵を描くミューラルというストリートアートをメインに、ハワイでスタートしたアートと音楽のフェス、Pow Wow Hawaii(パウワウハワイ)。OG SLICK等の有名なアーティストとローカルのアーティストが肩を並べて参加しているのが特徴的な同フェスは、今や台湾、ロングビーチ、イスラエル、シンガポール、ジャマイカ、ワシントンD.C.、ニュージーランド、ドイツ等々まで開催都市が広がり、一昨年、日本でも第1回目が天王洲で開催された。そのフェスを仕切るのが自身もアーティストであるハワイ出身のジャスパーだ。今年6月、イスラエルのPow Wowから戻ったばかりの彼をPow Wowのお膝元のカカアコでキャッチ。アートと街の関係について語ってもらった。

アートをストリートに出すことによって、みんなにもっと身近に感じてもらえるんじゃないかって思ったんだ

————ジャスパーのバックグラウンドを教えて下さい。もともとはアートに関係する仕事についていたのですか?

「ハワイで生まれ育ってサンフランシスコのアートカレッジに行ったんだ。California College of the Arts(カリフォルニア美術大学)に通って、ベイエリアには6年住んでいたんだ。その後、香港に4年住んで、それから京都にも2年くらい住んでたよ」

————京都では何をしていたんですか?

「漫画を勉強してたよ」

————日本の漫画を読んで育った感じですか?

「そうだよ」

————アート関係の仕事についたことは?

「高校生の時にデザイナーとして働いていたよ。コンベンションセンターやレクサスやトヨタのデザインをやっているデジタルメディアっていう会社でグラフィックデザインやウェブデザインをやっていた」

————2010年に香港でスタートし、2011年にPow Wow Hawaiiを開催したきっかけは?

「ハワイのアートコミュニティにパワーがなかったから、ハワイの人たちのアートの見方を変えたかったんだ。ミューラルもワイレアくらいでしか見ることができなかった。前はもうちょっとアートコミュニティにもパワーがあったみたいなんだけど、ハワイには仕事のチャンスがないってことでアーティストが外に出て行ってしまった。みんな、LAとかNYとかサンフランシスコに行ってしまったね。あと、アートと一般の人にバリアを感じていたんだ。ギャラリーとか美術館は自分とは関係のないものだから、みんなそこに行こうともしないんだよね。だから、アートをストリートに出すことによって、みんなにもっと身近に感じてもらえるんじゃないかって思ったんだ。それで、僕たちは3つのミッションを定めたんだ。ひとつは、コミュニティをキレイにすること。ミューラルを地域にたくさん描いたら、人々がミューラルを見る目も変わると思ったんだ。そして、人の流れを作って、その地域のビジネスも活性化させる。もうひとつは、人と人をつなげること。世界中から人が来て、アーティスト同士も繋がる。あとは、アートの教育をすること。キッズのためのアートクラスを開催したり、アーティストのコミュニティが講義をしたりね」

Tara McPherson

Shock1

ミューラルを描いたことによって、カカアコの雰囲気が変わった

————アーティストを招聘したり、大きなアートイベントを行うにはそれなりのお金も必要となってくるかと思いますが、資金はどのように調達したのですか?

「最初はほとんど自分で払ったよ。スポンサーが見つからなかったからね。ブランドもアートイベントに参加することがプロモーションになるとも思っていなかったし。最初は大変だったよ。でも、今はハワイアン・エアラインをはじめとするスポンサーがついてるし、政府から援助もしてもらっている」

————アーティストにはどこまで費用を払っているのですか?

「飛行機代や滞在費、材料費は払っているけど、ミューラルを描くギャラまではまだ払えないね。中には、本当だったら仕事で依頼されたら200万円から600万円くらいのギャラで描くアーティストもいるんだけどね。ギャラを払えない代わりに好きなようにミューラルを描いてもらうことにしているんだ」

————カカアコという地名はPow Wowで初めて知ったのですが、なぜこの地域を開催地に選んだのでしょうか?

「カカアコはとても理想的な地域だったんだ。なぜなら、チャイナタウンやダウンタウン、アラモアナ・ショッピングセンターやワイキキ、ワードといった知られている地域に囲まれているからね。それと、この辺は工場地域だから、平らな大きな壁がたくさんあるんだ。郊外の住宅街やビジネス街だと、ビルにたくさん窓やドアがあるからね」

————Pow Wowが開催されるようになってから、カカアコはどのように変わりましたか?

「普通はカカアコに行く用事はないよね。以前はオフィスに必要な文房具とか買いに行くくらいしか来なかったんだ。労働者が行く食堂しかなかったし。ミューラルを描いたことによって、地域の雰囲気も変わった。今まではグレイ系の色の壁しかなくて誰も気に留めなかったけど、ペイントすることによって、鮮やかに生き生きとした感じになったんだ。車を止めて写真を撮る人も増えたしね。卒業式や結婚式の写真をミューラルの前で撮る人たちもいるよ。人の流れが増えて、街が色鮮やかになったんだ。人々がミューラルを探すだけでなく、レストランやショップにまで足を運ぶようになったよ。僕たちはここでイベントもやったり、倉庫のスタジオを作ったりしているよ。だから、みんながこの地域を見る目が凄く変わったと思う」

他の都市に比べると、日本では描ける壁を見つけるのが本当に大変なんだ

————Pow Wowのプロジェクトをはじめるにあたって、参考にした都市などありあますか?

「アートの持つパワーや価値を分かっている都市だね。僕はサンフランシスコに長く住んでいたんだけど、街をあげてのアートのイベントをたくさんやっていたし、フィラデルフィアやNYとかもそうだね」

————ハワイのアートシーンはどのように変わりましたか?

「ローカルのアーティストの露出が増えて、注目されるようになったと思う。それで、アーティストにも仕事が入ってくるようになった」

————Pow Wowは、世界的に有名なアーティストとローカルのアーティストが一緒にプロジェクトに参加しているところがとても素晴らしいかと思います。

「ローカルコミュニティをサポートすることは大事だと思うんだ」

————昨年初めて東京でもPow Wowを開催しましたが、いかがでしたか?

「東京は難しかったね。特に壁を見つけるのが。このカルチャーを理解してくれる人も多くないし。でも、世代が交代して変わってきてると思うよ。価値を分かってくれる世代になっていると思う。でも、まだ、カリフォルニアとかマサチューセッツとか他の都市に比べると、描ける壁を見つけるのが本当に大変なんだ。壁に関しては他の都市では地域の政府が支援してくれる」

————日本で一般や政府機関などにミューラルを理解してもらうまでに、まだまだ時間がかかりそうですね。

「でも、日本はアートに対する理解は深いと思ってる。こんなに漫画を読んでいる人たちは他にいないし。ギャラリーや美術館などに自ら足を運んでアートを見に行く人っていうのは少ないと思うから、アートをストリートに持ち出して見てもらえば、みんな好きになると思うんだ。そうやって、アートに対する理解をもっと深めてもらうことが大事だと思う」

————今年は日本での開催予定はありますか?

「去年は神戸でやったんだ。今年も神戸でやるかもしれないね。神戸は規模は小さいんだけどね。他の都市と比べると日本での規模の広がり方がちょっと遅いかな。スポンサーを取るのはそんなに難しくはないんだけど、ビルの壁に描く許可を取ったりするのが大変なんだ。他の都市ではぜひ描いてくれって感じなんだけどね。ビルのオーナーが世代交代するまで待つしかないのかも」

————Pow Wowのゴールは?

「パブリックアートを世界中に広めることだね。そして、より多くの人にアートに対する理解を深め、アートを通して人々が繋がることが僕たちのゴールだと思っている。去年は8カ国でフェスをしたんだ。このままずっと続けて、もっと多くの都市で開催したいと思っているよ」

POW! WOW! Hawaii 2017 Official Video from POW! WOW! Worldwide on Vimeo.

 

Interview and Text by Atsuko Akko Matsuda

writer: Atsuko Matsuda