米原康正 × ルー・ヤン 対談
2018.01.13
中国・上海を拠点に活動し、科学や精神世界について、映像、インスタレーション、アニメーション、ゲーム、3DCGなど、デジタルメディアで表現するニューメディアアーティスト、ルー・ヤンが日本初の大規模個展 「電磁腦神教 - Electromagnetic Brainology」を表参道のスパイラルガーデンで開催している。日本のサブカルチャーの影響を受けて育ち、これまで日本国内でも何度か個展を開いてきたルー・ヤンと、頻繁に中国を行き来し、現地のアート事情にも明るい米原氏が彼女のバックグラウンドや思考、中国の現状について語る。
現実の人間は不細工過ぎて、漫画の中に生きる人だけが美しいと思っていた
米原康正(以下米原)「上海でやっていたART021というアート展でルーちゃんの作品を初めて見たんだ。その時、彼女のデジタル作品で写真も撮った(笑)。日本は何回目なの?」
ルー・ヤン(以下ルー)「覚えてないです。たくさん来ています」
米原「おぉ〜、日本語も話せる?」
ルー「ちょっとだけなら話せます。習ってはいないんですけど、自分でちょっと勉強しました」
米原「今回、デイヴィッド(ART021の創始者)が観た方がいいってつれていってくれたんだけどその時初めてだったの、勉強不足で…。それから一生懸命調べたんですけど。デイヴィッドとは古い友達で、僕の展覧会を初めて中国に呼んでくれた人なの」
ルー「すごく面白いコレクターの方ですよね」
米原「ルーちゃんは日本のアニメを見てたっていうのを読んだんだけど、最初にどういう形で興味を持ったの? 何年生まれなんだっけ?」
ルー「1984年です。小さい頃はロボットアニメを見てました。中国の上海のテレビで流れていた男の子が好きそうなロボット系の、『聖闘士星矢』とか『超時空要塞マクロス』とか『宇宙の騎士テッカマンブレード』が好きでした。『エヴァンゲリオン』も好きです。最近はセクシー系、かつ暴力系の『GANTZ』(ガンツ)が好きです。『ガンダム』がちょっと違うと思うのは、現実的すぎるところで、私が好きなのは現実離れした作品なので」
米原「80年代の生まれだと『スラムダンク』とかジャンプっぽい漫画がいっぱい中国で見られるようになった時代じゃない? そっちには全然いかなかったの?」
ルー「その時代に流れる日本のアニメは限られていて。『スラムダンク』も流れている時はすごく好きで見てました。でもそれよりもカルト系の作品の方が好きでしたね。テレビでやっていない作品は、漫画を売っているお店に行って自分のお小遣いで買って読んでました」
米原「それってすごく中国の中では少数派っていうか。女の子で男の子のそういうもの見てって、仲間とかいたりしたの? それとも…。あ、引きこもりって書いてあったもんね」
ルー「学校の近くに台湾からの海賊版のDVDや漫画を売っている小さい本屋さんがあったんです。海賊版だったので簡体字じゃなくて繁体字で書かれていましたけど」
米原「じゃあ繁体字も読めるようになってるの?」
ルー「漫画を読んでいたら読めるようになりました」
米原「ね、びっくりするのが日本の漫画が好きだと日本語をしゃべれたりするじゃない。だからその調べ方とかが半端じゃないんだなとは思ったりしてたのよ」
ルー「でも自分の場合はちょっとだけ分かるくらいで、あまり話せないんです」
米原「なるほどなるほど。そういう子は、”アート”とか考えずにただアニメ好きが高じて自分でも描いたりするけど、そういうことは始めてたの?」
ルー「はい。小学校一年生くらいの時から『聖闘士星矢』を真似したりしていて、小さい時の夢は漫画家になることでした」
米原「ストーリー(物語)も書いたりしてたの?」
ルー「その時はまだ真似するだけでした。でも当時の自分が一番綺麗なものだと思ってたのは、アニメの中の人物でした。アニメの中の人物が一番美しいなと思っていました。現実の人間はみんな不細工すぎて、漫画の中に生きる人だけが美しいって」
米原「それは小さいころから思っていて、今の作品にも反映されてるの?」
ルー「アニメの中の人物が好きで、自分の作品の中の主人公をアニメっぽくすると自分が楽しく仕事できるのでそういう風にしてます」
日本の「仙台貨物」っていうビジュアル系バンドのボーカルが好き
米原「あとさ、その世代だとコスプレも絶対入ってくるじゃない。コスプレとかは影響はされてるの?」
ルー「中国のコスプレも色々なレベルがあって。いい品質のやつだと好きだけど、でもほとんどクオリティが低いコスプレで、現実で見ているのとPhotoshopで修正したあとだと全然違うので、その時はちょっとがっかりします」
米原「じゃあ”リアル”っていうところにはあんまり興味がないのかな」
ルー「いい品質のコスプレだったら好きです」
米原「僕がこれまで中国で見た中で、本当に体格まで一緒にしてそれでこう集団で劇みたいなのをやるコスプレをやってる人たちがいたんだよね。すごいなーと思って見てたんだけど」
ルー「実は、ちゃんとしたコスプレよりもっと好きなのは、日本の「仙台貨物」っていうビジュアル系バンドのボーカルなんです」
米原「ビジュアル系なんだ」
ルー「このボーカルは、ちょっと太っていて、生まれつき顔がいいとかスタイルがいいとかではないんですけど、その人は自分の好きなようにコスプレをするのでそれを見るのが楽しみです。ギャップを楽しんでるみたいな」
米原「コスプレになると普段の身体とは全然違うの?」
ルー「そのボーカルはよく初音ミクのコスプレをするんですけど…」
米原「え、男性?」
ルー「はい、おじさんです(笑)。彼がコスプレしながら歌うのを見るのが楽しみです。かわいい。こんな感じです(写真を見せる)」
米原「(写真を見せられて)すごいね、もう、コスプレとかじゃないね(笑)」
ルー「そうですね、ちょっと普通じゃないコスプレが好きです。例えば、ドラァグクイーンとか。秘宝館とか」
米原「デパートメントHみたいな世界なんだね」
(この対談の2日前に開催されたデパートメントHで、米原は知らなかったが彼女はVJをしていた)
ルー「はい、デパートメントHも大好きです。すっごい面白いです!」
米原「デパートメントHは僕も友達がいっぱいいるよ。だったらファンシーヒムも知ってる?行ったことある? 2丁目(ゲイ)のイベントなんだけど」
ルー「行ってみたいです!」
米原「今度誘うよ。たぶんすっごい好きだと思う。そこにTap君ていうオーガナイズしてるやつがいて、すごい恰好してるからいつも」
ルー「このようなコスプレイヤーは本当はすごく心がきれいな人たちだと思ってます」
米原「僕はアウトサイダーっていうか、メインにいない人たちっていうのをテーマにしていることが多いんだけど、ルーちゃんも外側にいる人たちに興味があったりするのかな」
ルー「はい、本当にこういう感じの文化が好きです」
米原「中国って今でもゲイとかドラァグクイーンとか、ジェンダーの問題については厳しかったりするじゃない。そういう部分に対してはどう? 男とか女を区別しないようなことに関しては厳しくて、中国はそういったサイトを全部つぶしちゃったから」
ルー「周りのゲイの友達は別にそんなに気にしてないみたいです。(ゲイであることを)普通に公開しています。以前知った杉山真央という日本人の男性アーティストは、手術して自分の性を全部抹殺しました。その人のことを知ったのは上海にいた時で、友達が彼のニュースを教えてくれたんです。そのニュースをちゃんと読むと、そこに書いてあったのは、彼は男性にも女性にもなりたくなくて手術をして。その手術をするためにイベントをやって、それでお金を集めたということだったんです。その人がなぜそういうことをしたのかを、きちんと理解することができました」
米原「北京に「Destination」っていうゲイの人達が集まる場所があるのよ。北京に行く時はいつもチェックしに行くんだけど、いつも人いっぱいいて、中国には本当はすごくゲイの人が多いなって気はする、特に北京とか。中国の北の方って、男の人のイメージがマッチョだからその分ゲイの人が多くなったのかなって僕は理解してるけど」
ルー「多分、ヨネさんのいる環境にはそういうアーティスト系の人が多いので、ゲイということを公言する人が多いのかな。前に友達に上海の「Destination」みたいな所に連れられて行ったことがあるんですけど、そっちはもっとすごいですよ。「OBAMA」ってとこなんですけど。そこはゲイクラブで、私が行った時も、もの凄く人がいっぱいいました。丸い形の会場で、ポールダンサーも何人かいて、マッチョのゲイも大勢いました。その中に入ると自分の存在感がなくなります」
周りに悪い影響を与えないようにって政府の人に作品の上に白い布をかけられた
米原「ルーちゃんは、作品の制作という面で、中国にいても全く問題はない? 自由に作品は作れてる?」
ルー「さっきヨネさんが言ってくれたART021で展示した『子宮戦士』という作品は、周りに悪い影響を与えないようにって政府の人に白い布をかけられました」
米原「そう、僕も行ったんだけど、「入る人は限られてます」って言われて、入れてもらったり」
ルー「でも、そうやって隠されてたので、逆にますます人は増えてたと思います(笑)」
米原「(笑)。いつから、アートを制作することを考え始めた? 今みたいな作品を作るために大学に入ったわけじゃないって読んだけど、アートとかそういう部分を創るって意識しだしたのはいつから?」
ルー「小学校一年生の時に『聖闘士星矢』を真似してた時から、自分はこれからクリエイティブな仕事をしたいなって思い始めたんです」
米原「もうその時からなんだ」
ルー「絵を描くことで自分のクリエイティビティを表現できるのは楽しいなって思ったんです」
米原「自分がちょっと人と違うっていう部分をそこに投入しようって気持ちはあったの?」
ルー「自分は小学生の時からずっとオタクっぽかったのですが、自分の頭で思ってることを自分の作品に反映したいと思ったのは、中学生頃くらいからです。『GANTZ』とか『デスノート』のような王道ではない漫画が好きでした。年を取った人が主人公の『いぬやしき』のような、不完全な人でも主人公になれて英雄になれる作品が好きです。『いぬやしき』は最新の作品なんですけど。『デスノート』だったら夜神ライトが好きです」
ちゃんとコンセプトがある動画っていうのは、カウンターになるんだろうなって思う
米原「中国って今SNSの中とか、表現の仕方が動画になってる。ルーちゃんの作品も時代をちゃんと見てて取り入れてるなって思って。中国ではみんなが動画を見てるっていう流れで、作品も動画的なものに移動してるのかなって思ったんだけど」
ルー「私の場合、あんまりそうでもないかもしれないです。自分が表現したい内容は、静止画という美しさよりも動画という形の方がより内容を表現できるので動画にしています」
米原「じゃあ、それは中国の状況に合わせているわけではないんだ」
ルー「中国のトレンドは追っていなくて、ずっと昔から動画をやっていたので…。自分は、自分が中国人だとか、中国のトレンドとかよりも、一人の人間として生きているのであまりトレンドには関心がありません」
米原「今、こうやって皆すべてが自撮りになってて、動画がいっぱいあるということに対して、ちゃんとコンセプトのある動画っていうのは、カウンターになるんだろうなって俺は思ったりしてて。意識してるしてないとは別にね」
ルー「でも、逆にトレンドの美人の動画とかは見たことがあって、それは面白いものもあります」
米原「俺も別に嫌いなわけじゃなくて、一直播(yizhibo)とか見ちゃうから」
ルー「動画をたくさんの人に見てもらうためには変なことをやらないといけないみたいな風潮になってきていて、私の好きな動画があって、ドリルにトウモロコシを刺して食べる流行りの動画に挑戦したら髪の毛が巻きこまれて、ごっそり抜けるというものなんです。前に北京で個展をやった時に思ったのは、その個展に来る全員の人数よりも、動画を見てる人の方が圧倒的に多くてやはり動画サービスは人気で、こういう面白い動画には私自身でさえ興味を持っているので、普通の人は尚更興味を持っていると思います」
米原「自分の作品をもっといろんな人に見てほしい?それとも、わかる人だけが来てくれればいいのか、どっちのタイプなのかな」
ルー「どちらかというとたくさんの人に見てもらいたいです。今見てあまり興味ないなと思う人だとしても、自分の作品はカラフルで、アニメの要素も入っていたりして面白いので、見れば見るほど興味を持つようになると思います。今興味を持ってない人にも、見てもらいたいです」
米原「では、SNSをうまく使うということは考えたりしているのかな」
ルー「Vimeoには自分の作品を載せたりしています。自分が皆にちょっとずつ知られるようになったのも、自分の作品を掲載しているからだと思います。Vimeoを見た人から仕事等の話も来たりします」
今はビジネスチャンスやお金を稼ぐことは気にしない。自分の時間はほぼすべて作品作りに費やしている
米原「今回、ちゃんもも◎を使って作品を撮っているけども、彼女と一緒にやろうって思ったのは? どうやって見つけたの?」
ルー「初めてちゃんもも◎を知ったのは、NHKのドキュメンタリーのなかのインタビューで。すごいアイドルに憧れているみたいで、自分の顔は可愛くなくていっぱい整形したこととかも隠さずに話して、自分の夢をずっと追ってるし、彼女のような人はすごく美しい存在でいつか関わってみたいと思っていました」
米原「彼女はやっぱりアイドルの中ではすごく特別で、ちょっと違う位置にいるから。だから、ちゃんとすごいとこ分かっていってるんだなーと思ったりしたんだ、ちゃんもも◎と作品作ったって聞いた時に。僕はちゃんもも◎とは一緒に作品展作ったことがあって。その時の写真で写真集も作ったから後であげるね」
ルー「ちゃんもも◎のようなアイドルが結構好きで、ヨネさんとの作品も見たことあるかもしれないです」
米原「ほんと? ちゃんもも◎がディレクションして、若手アイドルたちにジャージを着せたり自分が萌えるシチュエーションにおいて僕が写真を撮るっていう、すごく屈折した作品展で。寝起きの髪の毛のぼさぼさとかエッチに思うっていう」
ルー「ヨネさんのような仕事すごく面白そうで私もやりたいです(笑)」
米原「今のアイドルシーンって、精神的に病んでる子たちが敢えて視線を浴びるっていうすごい屈折した状況でアイドルが成り立ってたりするのが結構あるのね。ああいうのってカウンターカルチャーだと俺は思ってたんだけど、すごい商売になったからもうエンターテインメントに変わっちゃったのよ。ちゃんもも◎がいる「バンドじゃないもん!」はカウンターカルチャーとしてのアイドルの最後のグループだったりすると思う。ルーちゃんの場合も、すごいカウンターカルチャー色を感じるんだけど、メジャーになった時に、そこをどういう風に考えてるのかなって。常に対抗していくものを探すことを続けるのかな」
ルー「たくさんの人に理解してもらうことはあまり望んでいなくて、たくさんの人に見てもらえればそれだけでいいです。今私の作品はネット上で見られるようになっているので、もちろん私に反感を持って汚い言葉を送ってくる人もいるんですけど、私はそんなに気にしないですね。私はオタクなので、自分の作品がたくさんの人に見られてるとしても嫌ではないので、自分の作品のスタイルにあまり影響はないです」
米原「中国では、アーティストってすごく成功していてお金をすごく稼いでる人っていうイメージがすごいあるし、僕もそう思われてて実際に言われるんだよね。でも日本だと、アーティストって恵まれなくて全然稼いでないのよ。ルーちゃんもやっぱり成功してお金がどんと入るとかって考えてたりするのかな」
ルー「今のところはまだお金の話は…。目先のビジネスチャンスとかお金を稼ぐことはあまり気にしていなくて、なぜなら自分はまだ若くて今の仕事をするのには凄く時間と気力がかかるので、それらは自分の作品作りに使いたくて、ビジネスの方にはあまり時間を使いたくないです。今自分の作品に集中すれば、将来的に長期的に考えた時にもっと大きなビジネスチャンスにつながるので。まだ若いうちは自分の作品に集中したいです」
米原「作品大きいもんね。あの顔のとか」
ルー「はい、自分の時間はほぼすべて作品作りに費やしています」
米原「では、最後にメッセージを」
ルー「皆さん、わざわざ自分の長い人生のうち数十分を使って作品を観に来てくださることに感謝しています」
【プロフィール】
ルー・ヤン(Lu Yang / 陸 揚)
1984年、中国生まれ。2010年に中国芸術院を卒業し、現在は上海を拠点に活動。科学、生物学、宗教、大衆文化、サブカルチャー、音楽など、さまざまなテ ーマを主題とし、映像やインスタレーション、デジタルペイントを組み合わせた作品を制作。近年の主な個展に「ポート・ジャーニー・プロジェクト 横浜⇆上海 ルー・ヤン展」(象の鼻テラス、神奈川、2016年)、「LU YANG Screening Program」(アーツ千代田3331、東京、2013年)。グループ展に「ヴェネツィア・ビエンナーレ」(2015年)、「A Shaded View on Fashion Film」(ポンピドゥーセンター、パリ、2013年)などがある。
米原康正
編集者、アーティスト。東京ストリートな女子文化から影響を受けたその作品は、メディアの形をして表現されることが多く、90年代以降の女子アンダーグランドカルチャーの扇動者でもある。早くからSNSの影響力を強く感知し、そこでいかに日本的であるかをテーマに活動を展開、現在Instagram、Twitter、Facebook、Weiboで日々情報を発信している。2017年6月、同テーマでアプローチの異なる3つの個展開催によるアーティスト宣言をし、更なるステップに登った。
【開催概要】
タイトル:ルー・ヤン展「電磁腦神教 - Electromagnetic Brainology」
会期:2018年1月5日(金)~1月22日(月)11:00~20:00
会場:スパイラルガーデン(スパイラル1F)(東京都港区南青山5-6-23)
入場:無料
writer: Atelier506