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Tokyo Art Bookstore Guide Vol. 1:代官山 蔦屋書店

2018.09.19

魅力的なアート本を取り揃える書店を紹介し、さらにその書店のお薦めの本を教えていただくというこちらの新連載<Tokyo Art Bookstore Guide>。その第一弾として、2011年にオープンし、今や代官山という街のランドマークにもなっている代官山 蔦屋書店に取材協力していただいた。
今回、お話を伺ったのは、ヴィレッジヴァンガードや青山ブックセンター六本木店で書店員としての経験を経て、2014年より同店にてファッションおよびアート売り場のコンシェルジュを務めている江川賀奈予さん。非常に魅力的な品揃えの代官山 蔦屋書店の中でも、特に最先端を走っている印象のアート本の売り場が、一体、どのように作られているかを、コンシェルジュの立場で語ってもらった。

代官山 蔦屋書店 ファッション・アート コンシェルジュ 江川賀奈予さん

ーーーーまずは蔦屋書店独特な“コンシェルジュ”という仕事について教えてください。

「コンシェルジュはお客様のニーズにプラスアルファ応えることが必要です。例えば『こういう本を探してます』と聞かれたら、『じゃあ、こういうのもあります』って10冊くらい積み重ねるくらいの知識が求められます。そのためには元々のベースが必要になります。私は以前勤めていた書店でもアートや写真集、サブカルチャーなどを担当していたので、ファッション、アートのコンシェルジュとして配属されました。具体的な仕事の内容としては、自分の担当分野の書籍の仕入れや、店頭での展開。それから、アーティストさんや写真家さん、ブランドさんなどと一緒に企画をさせていただき、ギャラリースペースを使って展示なども行なったりしています。先方から『こういう展示をして欲しい』と依頼される場合もありますが、私の場合は、例えばギャラリーに行って、『絶対にうちでやって欲しい!』って思ったら、そのまま声をかけてみたりして。こちらから依頼する場合が多いですね」

ーーーー代官山 蔦屋書店にいらっしゃるお客さんの特徴を教えてください。

「デザイン会社が周りにいっぱいあったり、ファッション系やモデル事務所もあったりするので、資料を探しに来ている方だったりとか、イメージソースを探しに来ているような方が多いです。特に夜は、そういった職種のお客さんが多いです。そういうお客さんの情報量に負けないように、こちらも揃えておかないといけないので、早め早めに出版社の情報を仕入れたりする努力は常にしています。とはいえ、やはり詳しい方も多いので、一歩先を行かれることは多々ありますね。ですけど、それがすごく勉強になります。それから、『ここだったら、置いてあると思って』って仰っていただくことがすごく多いので、それは嬉しいです」

ーーーー店頭を見ると、外国人のお客さんも多いですよね?

「そうですね。もちろん、観光で来ている方も多いんですけど、いろいろな書籍等を買っていかれるなと思って話をしてみると、海外のブランドのデザインチームの方だったりっていうことも多いです。あと、自国で出版されている書籍を当店で購入される方もいたりして。何でかな?と思うこともありますけど、海外には当店のような形態の、各々ジャンルで分かれているような書店はあまり無いのかもしれません」

ーーーー代官山 蔦屋書店ならではの、売りっていうのは何でしょうか?

「こちらから交渉して、先行で発売させていただくこともあります。あとは代官山 蔦屋書店限定のものを作ってくださったりする出版社もいらっしゃいます。自ら情報を仕入れて、海外の出版社と直接コンタクトを取って入荷している本もあるので、そういう本は日本では当店でしか扱っていない可能性もあります。その辺は大きな強みなのかなと思います。それから、イギリスのIDEAというファッションフォト系の出版社があるんですけど、日本での店舗販売は、最初はDover Street Marketさんと当店だけでしたね。立地などで選んでいただいていたりもするんだと思いますけど、うちを高く評価してくれて、『ここで売って欲しい』って言っていただく海外の出版社もあり、とても有り難いです」

ーーーー特に力を入れているジャンルなどはありますか?

「アートジャンルで最も人気なのはファッションフォトなので、日本、海外関わらず、ヴィンテージから新しいものまで、ファッションフォトには力を入れています」

ーーーーヴィンテージ本を多数扱っているというのも代官山 蔦屋書店の大きな特徴ですね。

「当店に加藤というスタッフがいるんですけど、彼は元々、中目黒にあったArt Bird Booksというアート系に強い古書店の店主をやっていました。彼が古書の知識を膨大に持っているので、ヴィンテージ本はほとんどお任せして、彼と一緒に仕入れに行ったりもしています」

ーーーーアート系のヴィンテージ本は海外のお客さんにも人気がありそうですね。

「買われるのは海外のお客さんのほうが多いと思います。特に往年の日本人写真家の初版本は人気が高いです。川田喜久治さんの『地図』とか、荒木経惟さん、森山大道さん、植田正治さんの写真集を、結構海外の人が求めて買っていかれます。他にも結構コアなのを探している人もいらっしゃいます。長濱治さんの『HELL’S ANGELS 地獄の天使』や、深瀬昌久さんの『鴉』(カラス)などを、『初版本ないですか?』って仰ってくる方もいます。実際、海外でも人気のある写真集ですけど、求めてくるものの質がすごく高くて、私たちよりも日本の写真集に詳しんじゃないか?って思うようなお客さんも多いです」

ーーーーそういったお客さんが多いと、刺激にもなりますね。

「そうですね。毎日店頭に立っていると、お客さんに刺激を受けることが多いです。いろいろとよく知っているお客さんが多くて、本当に勉強させていただいています。良いお客さんが多いから、当店は良いお店って言われるようになっているんじゃないかなと思います。代官山 蔦屋書店の中でも、私たちのいる2号館(アート、写真、ファッション、デザイン、車)は1号館(文学、ビジネス、スポーツ)や3号館(旅行、料理、文具)とはちょっと毛色が違っていて。特に2号館に関しては、やはりお客さんに作っていただいているっていう部分が多くて、すごくありがたいです」

ーーーーそれでは、ここからは実際の売り場から選んでいただいた5冊の本の紹介をお願いします。

1. 五木田智央『PEEKABOO』(888ブックス/3,000円 ※税抜)

「今年6月にオペラシティで行なわれた展覧会の図録です。オペラシティで販売されていたものに、一般発売用に帯が付いていて、帯がすごく大きなポスターになっています。この図録のアートディレクションを鈴木聖(さとし)さんという方が担当していまして、五木田さんと鈴木さんの間で、『卒業アルバムみたいな感じにしよう』って話し合われて作ったそうです。五木田さんは最初、海外で非常に人気があって、今は日本でも人気が出ています。サイン会も当店でしていただきまして、サインと一緒に一人一人、みんなに違う絵を描いてくださいました。本当に素敵な作家さんです。
当店では展覧会の図録を結構取り扱っていますが、図録はあまり書店への流通がないので、こちらも出版元の888(ハチミツ)ブックスから直接仕入れています。展覧会に行けなかった方や見逃した方が、『うちならば図録が置いてあるだろう』という感じで、探しに来ていただけるケースは多いです」

 

2. KOJI YAMAGUCHI『ROSES』(SALT AND PEPPER/5,000円 ※税抜)

「これはタイトルの通り、全部、薔薇の絵です。最近の人にはあまり無い作風で、西洋絵画のようなタッチで、次世代な感じがします。この山口さんというアーティストは、もともと、VAINL ARCHIVEのテキスタイルのデザインを提供している方です。VAINL ARCHIVEのデザイナーの大北さんに紹介していただいて、今年の4月末からゴールデンウィークにかけて、当店のギャラリースペースで作品の展示をしていただきました。これは、その時に作られた本です。デニムやミリタリーの生地をキャンバスに貼って、その上に薔薇を描いた作品があったりして、面白かったです。大北(幸平)さんが恵比寿でやっているSALT AND PEPPERというギャラリーでも同時に展示を行なって、この本もSALT AND PEPPERから出ています。展示の時に、VAINL ARCHIVEでロンTも作ってもらって、それも沢山売れました。山口さんはニューヨークに住んでいて、NEPENTHES NEW YORKでも展示をされていました。最近、日本に帰ってきて、今後は日本で活躍していくようです。
最近は、ファッションの人とアーティストの人がコラボしているケースが多いと感じています。VAINL ARCHIVEも写真家の小浪次郎さんがずっとルックブックを撮られていて、アーティストを入れることによって、ルックブックも作品になります。今はそういった流れもそろそろ定番化してきて、次、誰が何をやるのかな?っていう気もしています」

 

3. Byron Hawes『DROP』(powerHouse Books/5,630円 ※税抜)

「これはSUPREMEPALACEといったストリート系のブランドのショップに並んでいる人を撮っている写真集です。一番最後の奥付に、『何月何日にどこの店舗』って全部書いてあって、一応、東京もありますけど、ほとんどが海外です。ブランドはSUPREMEとPALACEが特に多いですけど、他にはRick OwensVETEMENTSなどもあります。こういうのをわざわざ本にしたというのが、私の中ではすごく面白く思います。もちろん、並んでいる人は転売屋もいると思うんですけど、日本と違うのは、すごく楽しそうだなって。日本も本気で商品が欲しくて並んでいる人もいると思うんですけど、日本で行列に並んでいる人たちって、下向いて、ずっと携帯見ている感じが多い。そういうのじゃなくて、お祭りっぽい感じで、みんなワクワクして並んでいる感じがすごく良いなって思いました。あとは、そういう転売屋が過熱している状況に対して、批判しているのかな?とも思いました。本の解説にも、いつか落ちるから『DROP』っていうタイトルにしたとも書いてあって。おそらくそういう皮肉も込めているんだろうと思います。
90年後半とか2000年前半の裏原ブームの頃も、みんなショップに並んでいましたけど、そういうのも2010年頃には落ち着いてきました。けど、今はメルカリとかで、誰でも簡単に転売出来るし、それも大いに影響しているのかなと思います。ただ、本当に好きな人のためには、そういうのは無くなって欲しいです。そういう今の状況を表わしているっていう意味では、この本はファッションフォトというよりは、ドキュメンタリーに近いのかもしれません」

 

4. Hayahisa Tomiyasu『TTP』(MACK/5,550円 ※税抜)

「イギリスのMACKという出版社がやっている<First Book Award>という、今まで写真集を出版したことがない人を対象とした賞の、今年のグランプリ受賞作品です。日本人の写真家なんですけど、ドイツのライプツィヒという都市で、住んでいた学生寮の部屋から見える公園を、ずっと定点観測しているだけの写真集なんです。その公園に卓球台(=『TTP(ドイツ語でtischtennisplatte)』)があって、卓球台の周りでいろんなことが行なわれていて、それがめちゃくちゃ面白い。祈っている人がいたり、おむつ替えていたり、アーチェリーやっていたり。けど、卓球をやっている人は誰もいない。MACKを卸しているディストリビューターさんに最初に見せてもらった時に、思わず笑っちゃいました。無名の日本人の作家で、MACKという出版社を知らない人にも、結構これは売れています。写真を知らない人でも十分楽しめる。誰が見ても分かりやすいっていうのは大事なんだなって思いました。
こういう写真集って私、好きなんですよね。綺麗なものとかよりも、マーティン・パーとかみたいなほうが見てて面白い。マーティン・パーも結構馬鹿馬鹿しい写真が多いじゃないですか。写真の良い悪いって、絵とかよりも分かりにくいと思うんです。その人の感性でしかないし部分もある。その中で、こういう人間味がわかるようなものは分かりやすいし、グッとくるものがあります」

 

5. Jakob de Tobon『The Motif Magazine 001』(The Motif Publishing/5,200円 ※税抜)

「これはDiorやCHANEL、H&Mのイメージを手がけているグラフィックデザイナーが作った、雑誌兼写真集みたいな感じです。この号は青をテーマに、青のイメージのビジュアルが載っています。写真家は結構、ファッションフォトを撮っている人ばっかりで作っています。表紙が6種類あって、そこもファッション誌っぽい感じです。昔はイメージだけを集めたような雑誌っていうのはあったんですけど、最近はこういうイメージだけで、テキストがほとんど無いみたいのは雑誌はあまり無いように思います。
これは、うちの写真担当のスタッフがインスタグラムで見つけてきて、出版社から直接仕入れたもので。最初に納品してもらったものが、すぐ完売してしまったくらい人気でした。当店にはデザインとかを仕事でやられている方が買いに来ることが多いので、イメージソースとしてもすごく分かりやすくて、テーマが統一されて、いろんな人がやっていてっていうのが受けたのかなっていう気がします」

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代官山 蔦屋書店

〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町17-5

開館時間:7:00~26:00(2F 9:00~26:00)

年中無休

writer: Kiwamu Omae