ブルックリンで開催中のストリートアート展「BEYOND THE STREETS」をレポート
2019.07.08
ブルックリンで大規模なストリートアート展「BEYOND THE STREETS」が6月21日から8月末まで開催中だ。これは2011年に「ロサンゼルス現代美術館」で開催された「ART IN THE STREETS」のフォローアップ的な展示であり、昨年はロサンゼルスで開催。今回はその2倍の規模でグラフィティ発祥の地であるニューヨークにいわば凱旋した形だ。展示会場は今や「グラフィティーツアー」も敢行されるなど新しい作品を生み続けているブッシュウィックと並ぶウィリアムズバーグにある商業ビル「25KENT」。対岸にマンハッタンを望む9200平方メートル以上の2フロアを使用贅沢に使った空間には70~80年代のストリートアートから現代まで、150人の作品が1000点以上展示されている。
オープニングの日にはラッパーのLL COOL J や映画「ドゥザライトシング」に出演した女優で地域の活動家であるロージー・ペレス、グラフィティアーティストのMIKE171らが出席した。 MIKE171がグラフィティを始めた68年には描く道具がわからず、靴墨を使っていたと会見で語っていた。その他グラフィティの歴史で最初にメディアに取り上げられたTAKI183 の軌跡や、伝説的グラフィティ集団タッツクルー、レジェンドのフューチュラ、商業的にも成功しているOBEY、80年代のNYを撮り続けた写真集でも有名なマーサ・クーパー、ビースティ・ボーイズのアートワークを手がけたセイ・アダムス、ジャン・ミッシェル・バスキアやキース・ヘリング、シェパード・フェアリー、日本人では村上隆やMADSAKi やGAJIN FUJITA, LADY AIKO らが参戦。
この展示会のキュレーションを務めたのはロジャー・ガストマン。「アメリカングラフィティの歴史」の著者でOBEYことシェパード・フェアリーと共にかつてアート&カルチャー雑誌「SWINDLE」を創刊した人物。バンクシーのドキュメンタリー映画の共同プロデューサーでもある。ガストマンによるとグラフィティが誕生したのは1960年代半ばのNY。デリバリーボーイをしていたディミトリスという少年が地下鉄の中に自分の名前を彫ったのが最初だという。TAKI183がニューヨークタイムズに取り上げられた1971年よりもかなり前だ。それから競うように地下鉄の電車や街中には名前のタギングやアートの要素を含んだグラフィティが現れた。その頃は単純に「見られること」を目的としたスパニッシュやアフリカ系の若者たちのアンダーグラウンドの表現方法だった。今では地下鉄にかつてのような描かれることは無くなり、商業的なミューラル(壁画)やデザインの分野でビジネスと結びついた。それらを一堂に集めた展示は「BEYOND THE STREETS」はガストマンの研究の一つの集大成とも呼べるだろう。
筆者が個人的に惹きつけられた展示をいくつか挙げたい。新鮮だったのはラジカセからカセットテープ、ナイキなどのスニーカー、はたまたリビングルーム全てをボール紙で制作するバーミンスキーアートの展示。しかもどの作品にも触れてもOK。続いて惹かれたのは伝説のライターの足跡やヒップホップ創世記の70年代から80年代のパーティやライブのフライヤー展示だ。その中でもローワーイーストサイド(LES)出身のグラフィティアーティスト、リー・キニョーネの展示。彼は映画「ワイルドスタイル」やブロンディの「ラプチャー」のビデオにも登場。筆者がLES に住んでいた頃、リーの後輩だという友人からいくつかのリー伝説を聞かされていた。当時のライターたちは友人も含め、地下鉄の車庫の鍵を持っていたこと、またリーの学生時代、机はグラフィティの彫刻のように彩られ、机としての機能は果たさなかったが、あまりの素晴らしさに先生は何も言わなかったことなど。今回の展示では彼の当時の作品と現代の作品の対比を楽しめる。また、サウスブロンクス出身のグランド・マスター・フラッシュ・アンド・ザ・フュリオス・ファイブのコーナーには彼らの82年の大ヒット「THE MESSAGE」の直筆のリリックが書かれたノートが展示されていた。一曲のヒットが新たな流れを生むきっかけとなった時代。のちにアメリカのメインストリームになり得ようとは予想だにしないムーブメントの源へと想いを馳せることが出来た。ビースティ・ボーイズの展示コーナーも見応えたっぷり。確かにアートへと昇華したかもしれないグラフィティだが、昔も今もその根底には何らかのメッセージを伝える役割を果たす手法であるというところは普遍的であろう。
<DJ NAOMIプロフィール>
ラジオホスト。NY在住10年。NYから日本の FM NORTH WAVE Urban Hype From NYC 、BAY FM のCOUNT DOWN RADIOなどに出演中。様々なNYのトレンドを様々な日本のメディアに発信している。趣味はヨガと一人旅 @djnaominyc
Text & Photos by DJ NAOMI
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