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アートマンションTHE AOCAが誕生。クリエイティブユニットLQID(リキッド)を直撃

2017.06.29

Airbnbの本格進出によって、日本でも普及し始めて来た“民泊”という宿泊スタイル。現在、大田区は東京都内で唯一、国家戦略特区として民泊が法律的にも認められており、空の玄関口である羽田空港からのアクセスも良く、2020年の東京オリンピックに向けて、民泊ビジネスが非常に盛り上がっているエリアでもある。そんな大田区・大森に今年6月、民泊専用のアートマンション「THE AOCA│Apartment of Contemporary Art ,Tokyo」(以下、AOCA)が誕生した。

今回のプロジェクトには、LAを拠点に活躍するベテラン・グラフィティライターである<OG SLICK>、大阪とLAを拠点にOG SLICKのクルーであるDISSIZIT!の一員としても活躍する<COOK>、さらに東京からはアーティストコレクティブ<81BASTARDS>が参加。それぞれのアーティストが単独、あるいはコラボレーションという形で外壁、エントランス、全居室の壁面に対してペイントし、まさに建物が一つのアート作品として完成している。“アートマンション”という、おそらく世界的にも初めての試みであろうこのAOCAは、投資用の一棟マンションとして販売され、オーナーが国内外からの旅行者へ民泊という形で部屋を貸し出すことになる。

このプロジェクトをプロデュースしたクリエイティブユニット=LQID(リキッド)のメンバーに話を伺った。

——まずはご自身の所属するLQIDについて教えてください。

「最初は『何か新しいクリエイションをしていきたいね』っていう雑談からスタートして。これまでも、何かやりたいねって言いつつ、でも意外とやれないことが多くて。人間関係とか、派閥とか、思考の違いとか、フィールドの違いとか、いわゆる“しがらみ”です。じゃあ、いっそのこと誰がやっているっていうのは表に出さないで、自分たちの格好良いと思うクリエイションをしていこうっていうのがLQIDの始まりです。LQIDはプランニングをメインとする自分以外に、ビデオグラファーとフォトグラファーで構成されています。その一発目のプロジェクトがたまたま今回のAOCAになりました」

——AOCAのプロジェクトを手がけることになった経緯は?

「クライアントであるデベロッパーから『不動産会社として、どうやったら新しい価値を創造出来るのか?』っていう相談をされまして。それに対するアンサーがAOCAでした。民泊、インバウンドといった社会情勢を踏まえて、旅のベースとなる宿泊地でユニークな体験をしてもらったら、日本での滞在がもっと面白くなるんじゃないかっていうところから始まって。そこから段々とディテールを固めていって実行に至ったという感じです」

——不動産物件とアートを結びつけるとしたら、普通は単純にアートを部屋に飾るってなると思うんですが、そこを直接壁に描くっていうやり方にしたのは?

「現代アートど真ん中の作家さんをアサインするってなったら、多分、飾ってると思うんです。けど、僕らはグラフィティライターだったりストリートアーティストが好きっていうのが根底にあって。そうなると、やっぱりミューラルにこだわりたいので、ダイレクトに壁に描こうってなりました」

——今回参加してもらったアーティストのセレクトはどのような流れで?

「例えばグラフィティライターとルーツの違うペインターがコラボするのってなかなか賛否両論ですよね。場合によってはそもそもご法度。でも、それってグラフィティライターがいるからストリートにアートが存在しているということに対して、リスペクトマインドを持ったペインターが少ないから発生する問題ですよね。であれば、お互いにリスペクトマインドを持った、かつハイセンスなペインターとハイキャリアのグラフィティライターが組んだら、どれだけヤバい作品が出来てしまうのか?!というところからまずスタートしました。MHAK(81BASTARDS)と『海外のアーティストだったら誰とやりたい?』っていう話をたまたましてて。そこでSLICKの名前が浮上して、MHAKに『何か案件があったらSLICKと一緒にやれたらアツくない?』って話をして。そしたら、ちょうど良いタイミングで今回の話が出てきたので、COOK君にも相談して、やろうやろうとなってSLICKに来日してもらいました」

OG SLICK

——それぞれのアーティストには、どういったオーダーをしましたか?

「これを描いて欲しいっていうような具体的なことは、実は言わなかったんですよ。“羽田が近い”、“日米合作”、“オリンピックがこれからある”といったポイントワードを伝えて、あとは『宿泊地として全てのゲストが素晴らしい経験を得られるようなものをお願いします』ってことだけを伝えたんですよね。ただ、事前にこういう絵を描きたいっていう下描きはもらって、クライアントに許可を取るっていう流れにはしました。それぞれの部屋には作品に合わせてミリタリー、モダンジャパニーズ、アメリカン、スカンジナビアっていうテーマを持たせて、こういう家具を入れたいっていうのはふんわりと伝えて、インテリアスタイリストとアーティストがなるべくコミュニケーションを取りやすいようにしました」

——実際の作業に入って、大変だった部分は何でしょうか?

「準備としては、マスキングが本当に大変でしたね。物件全部をやるのに、多分、700メートル以上のマスキングテープとマスカーを使ってて、近くのホームセンターからマスカーの在庫が無くなったくらいで。今、大森で何が起きてるんだ?っていう(笑)。あと、アーティストはスプレーの人は問題無かったんですけど、ペインターは塗料が壁紙に乗らなくて、それは苦労したって言ってましたね。あと、実務的なところでは、皆さん人気のアーティストということもあるんですが、スケジューリングが一番大変でした。COOK君が一番最初に現場に入って、それが4月21日だったと思うんですけど、そこから約1ヶ月かかりました」

——AOCAが完成して、ご自身の感想はいかがでしょうか?

「作品としても申し分なく、最高ですね。今回のプロジェクトで言うと、部屋全体を一枚のキャンバスに見立て、居住空間とアートの親和性を高めることが実現できたのは嬉しかったです。あとは利用する人とか、物件を購入する投資家の人や市場がどう判断するってなった時に、改めて冷静に考えられるかなって思います」

——市場の判断という部分で、改めてAOCAの意義って何でしょうか?

「建物って経年劣化するじゃないですか。でも、アートって作家性によって、その価値は時間が経つほど上がっていく。AOCAはそこを掛け合わせたビジネスモデルで。その新しさや面白さに納得して貰った上で物件を購入してもらって、不動産としても回せるし、アーティストの作品があることで、不動産だけではない別の価値も生まれる。僕の役目としては、あらゆることの実行に必ずコンセプトをもたせたこと。例えば駅からAOCAまでの経路を間違えた人でも簡単に場所を発見できる様にルーフトップへAOCAのピースを入れたり、商店街から一本入った立地なので縦のラインを活かした垂直のミューラルで場所を伝達したり。ただ格好良いからというそれだけの理由ではなくて、これには視認性を高める為の合理的な目的がある。その必要性とビジュアルの共存には気をつかった部分ですね」

——大森に続く今後のプロジェクトについて教えてください。

「都内で二箇所、それぞれ同様の計画が進んでいます。来年には完成する予定です。ひとつはアカデミックな方向に。もう一つはジャパニーズライクな方向で構想を練っています。例えば伝統的な日本ならではの技術で海外アーティストと作品を制作してみたりとか。それとは真逆にIoTを活かして作品に拡張性をもたせたりとか。でもそれらは同じアーティストで構成されているとかっていうような、意外性のあるものもやれたら面白いと思いますね」

——最後にLQIDとしては今後、何をやっていきたいですか?

「乱暴な言い方になっちゃいますけど、格好良いなっていうことを可視化していきたいなっていうのが、LQIDの皆の思いです。例えばグラフィティは『落書きなのか? アートなのか?』みたいな論争はもう聞き飽きてて。僕らは明確なコンセプトを打ち立て、それを格好良いなって思うアーティストと共にアウトプットするという、シンプルだけど誰も真似出来ないことをし続けていけたらと思っています」

THE AOCA│Apartment of Contemporary Art ,Tokyo
http://hotelaoca.jp/

LQID
http://instagram.com/l_q_i_d

writer: Kiwamu Omae