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Tokyo Art Bookstore Guide Vol.2:SALT AND PEPPER

2018.12.17

アート本を扱う書店やショップを紹介する新連載<Tokyo Art Bookstore Guide>の第2弾は、前回、代官山 蔦屋書店のコンシェルジュ、江川賀奈予さんのお話の中でも登場した、恵比寿にあるギャリー&ショップのSALT AND PEPPERをピックアップ。クロージングブランド<VAINL ARCHIVE>のデザイナーである大北幸平氏が、今年(2018年)2月にオープンし、ギャラリーとして不定期に大北氏がセレクトしたアーティストの個展などを行ないながら、その一方で、数多くのアート本の販売も行なっている。特に「ZINE」(ジン)と呼ばれる、少部数で主に自主制作やZINE専門の出版社によって出版される作品集や写真集の品揃えは素晴らしく、日本ではここでしか手に入らないようなZINEも少なくない。今回は大北氏と、ZINEを含む様々なアート本の仕入れを担当している山下丸郎氏の二人にお話を伺った。

(左)山下丸郎氏、(右)大北幸平氏

ーーーーまず最初にSALT AND PEPPERをオープンした経緯を教えてください。

大北幸平(以下、大北)「もともとは僕自身は漠然とアートが好きっていう程度で。ブランドをやりながら、自分でもグラフィックをやったり、あとVJもやったりと、いろいろなことをやっていました。ただ、自分で描いたグラフィックを自分のブランドの服に載せることに違和感も感じていて。以前、働いていたブランドで、一度、ロンドンのアーティストのSHEONEやニューヨークのCrashと仕事をした機会があったんですけど、アーティストと一緒にやると、自分たちだけでやるのとは全然違うものになっていくのが面白いなっていうことを知って。それで、VAINL ARCHIVEでも、イラストレーターのNoritakeさんにブランドロゴやイラスト描いてもらったり。その後、小浪次郎くんっていう写真家と一緒にブランドのルックブックを作ったり、フランスのJuliet Casellaっていうアーティストのアートワークをブランドで使わせてもらったりするようにもなって。彼らとのプロジェクト自体は良かったんですけど、アーティストさんといろいろとやっていくうちに、だんだんと消化しきれなくなってくる部分も出てきて。例えば、洋服にアートワークを載せて売るっていうのも限度があるし、こじつけみたいなのも出てきちゃう。でも、アートも洋服も両方好きで。それで、ちょっとしたギャラリーみたいなことやりたいなって」

ーーーーブランドをやりながら、アートの存在が大きくなっていった感じでしょうか?

大北「そうですね。でも、ここで何をやるかというのはあまり決めてなくて。結構、漠然とした感じで始めました。でも、箱がちゃんとあって、見せ方とか(人を呼ぶための)声がけが出来ていれば、やっていける。リスクを張る部分は張って、見せる部分は見せていきたいですね。」

ーーーーSALT AND PEPPERはブランドとは完全に分けていらっしゃるんですよね?

大北「そうですね。もし一緒にしちゃうと、もっと損得や利益を見ちゃうんで、絶対に無理な気がします」

ーーーー今年2月のオープン時には写真展をやったんですよね?

大北「はい。これまで3回くらい展示をやったんですけど、最初は小浪次郎くんの写真展をやって、うちの出版で本も出しました。あと、Silent SoundっていうLAのパブリッシャー(出版社)と(山下)丸郎くんとで協力してもらって、ポップアップもやっています」

ーーーー山下さんはどのようにSALT AND PEPPERに参加したのでしょうか?

山下丸郎(以下、山下)「幸平さんから、『事務所を移転してギャラリーみたいのを併設するんだけど、その場所でZINEとかを扱ったりしたいから、良かったら本のセレクトをやってみない?』っていう感じでお話を頂きました」

大北「僕もアート本を買うのが結構好きなんですけど、僕のセレクションだけだと確実に偏るなと思って。ただ、最初は二人で一緒に本を見に行って、仕入れたりもしてたんですけど、それだと意味無いなって。それで、丸郎くんが好きなのをもっと見せたいと思って、完全に任せたら、バリエーションも出てきました。それこそ『こんなのどこで見つけてくるんだろう?』って思うようなものもあったり」

ーーーーZINEの面白さって、どういうところにあると思いますか?
山下「気軽に手に取れるっていうのは大きな魅力だと思います。ちゃんとした製本がされた写真集だと販売価格もそれなりの値段になるので、誰しもが気軽に何冊も購入出来るものではないと思うのですが、ZINEだと、大体はそこまで高くないので、色んなアーティストの作品を見ることが出来ますよね」

大北「青とか黄色い紙とかに無造作に刷っている感じとかも、なんか好きで。あと、ZINEって収集癖をくすぐられるみたいのがあるんですよね。レコードみたいにジャケ買いしたりとか、Tシャツとかをピックする感じとも似ている気がします」

ーーーーちなみにお二人はどういったタイプのアートが好きですか?

大北「僕は視覚的にわかりやすいものですね。ファッションアート、ファッションフォトとか。あと、SALT AND PEPPERのロゴを描いてもらったStefan Marxもそうですけど、アーティストのアイコンっていうのがしっかり出ているほうが好きです。元々、タイポグラフィーが好きで、Tomato(注:90年代前半から活躍するロンドンのデザインチーム)が出てきた時みたいな、ああいう感じがすごく好きだったんで。ちょっと暗かったり、シュールなほうが好きですね」

山下「パッと見て分かり易く格好良いものや、ポップなテイストがあるものが好きですね。具体的な線引きみたいなものはないんですが。グラフィティを経て表現されているドローイングとか。写真だったら、何を撮っているか最初分からなくても、グラフィカルにパッと入ってくるような格好良さがあるものだったりとか好きですね」

ーーーー今後、SALT AND PEPPERをどう展開していこうと考えていますか?

大北「出来れば、もう少し広いところを借りたいなって思っています。けど、この場所を残すか残さないかも決めていなくて。条件次第では移ってもいいし、両方残しても良ければ残す。展示に関しては、なんとなく、3、4人、次にやりたい作家さんはいますね。ただ、それも、あんまり考えちゃうと無理だっていうのは分かっていて。僕は結構スケジュール通りにやりたいんですけど、海外アーティストだと、やっぱそうもいかないので。けど、それも海外アーティストと一緒に仕事をする上での面白さだったりもします」

ーーーーそれでは、ここからお二人に選んでいただいた、現在、お店で扱っている、お薦めの6冊の紹介をお願いします。

1. Mosa『Partition Pour Bulky』(innen/1,000円 ※税別)

山下「スイスのinnenっていう、ZINE業界だとかなり大御所的なパブリッシャーが2016年に出した、Mosa(Alexandre Bavard)っていうフランスのグラフィティライターの作品で、彼のいわゆる“タギング”(注:グラフィティライターが主に自分の名前を書く行為およびその文字)のみで作られています。Mosaのタグが昔から好きだったんで、友達にパブリッシャーを紹介してもらって仕入れました。Mosaの所属しているクルーの他のライターもそうなんですけど、いわゆる世間一般のグラフィティのイメージから離れたようなものが多くて、好みですね。グラフィティ絡みのZINEって、日本にはあまり入ってきてないですけど、SALT AND PEPPERは品揃え的には、かなり多いと思います」

2. ZEBU『Paintings』(2,100円 ※税別)

山下「ZEBUというベルリンのアーティストユニットの、ここ3年間のペイント作品を集めた、アーカイブ集的な一冊です。彼らも、もともとはグラフィティにベースがあって、今もミューラルとか壁画プロジェクト的なことを沢山やっています。これはビビッドな発色の色味だったり、抽象化の仕方だったりとかが、すごい面白いなと思って選びました。彼らもそうですけど、ヨーロッパはグラフィティを経た表現をしている人が多い印象ですね」

3. Tim Coghlan『What You Call Life』(1991/2,200円 ※税別)

山下「メルボルン在住のTim Coghlanはアーティストでありながら、Knowledge Editionsってパブリッシャーもやっています。彼は写真もやるし、自分でコラージュもやったり、いろいろと手がけている、手法にとらわれずに表現しているアーティストですね。これはフランスの1991というパブリッシャーが、彼の写真を使って出したZINEで、メルボルンで行なわれたアートブックフェアに合わせて作られたものです。白黒の粒子粗めのプリントも良い雰囲気です。彼特有のシニカルな感じもあって、好きですね」

4. Grace Ahlbom『Dreaming Is Heavy Metal』(Soft Opening/4,800円 ※税別)

山下「年明けの1月15日にSALT AND PEPPERでサイン会と写真の即売会をやる予定の、Grace AhlbomのZINEです。彼女が北欧へ旅行に行った時に、ブラックメタルのレコード屋さんやライヴに衝撃を受けて作った一冊です。その旅行の時の写真と、ロンドンにて友達にブラックメタルのメイクをしたものを撮った写真を組み合わせて構成しています」

大北「彼女はニューヨークの人なんですけど、この作品のローンチもニューヨークの由緒ある古い書店でやっていて。まだ20代前半の子が、こういう感じの作品をそういった場所でしっかり見せるっていうのも面白いなって思いました」

5. Jim Mangan『Time Of Nothing』(Silent Sound Books/6,000円 ※税別)

大北「これは先ほどの名前の出た、Silent Soundというパブリッシャーから出ている写真集で。このJim Manganっていうフォトグラファーのことは知らなかったんですけど、この写真集を見てみたら物凄くハマってしまって。湖の上を飛行機で飛んで撮った風景写真なんですけど、この色合いとかが、すごく抽象的で。何だかよく分からないけど、綺麗みたいな。Massive Attackのジャケットとかをデザインしていた、Tom Hingston Studio辺りのイメージを思い出しますね。この人の写真展をうちでやりたいと思っていて。そのくらい好きです」

6. Shin Hamada(濱田 晋)『Looking at different things / Doing the same thing』(白い立体/1,800円 ※税別)

大北「これは濱田晋くんっていう写真家の子の、ちゃんと製本した作品っていう意味では最初の写真集です。実は彼とは長くて、8年前くらいから知っていて。写真家になりたくて頑張ってる頃から、いろいろと活動しているのを近くで見てきて、節目節目でちょっと仕事を頼んだりしたこともあって。人が興味あるものと、興味ないものの境界線みたいなのを、多分、すごく気にしている子だと思うんで。『そういう子だったんだ?』みたいなのも、改めて気付いたりして、面白いですね」

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SALT AND PEPPER

〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿2-5-2 今村ビル2階
営業時間:14:00~20:00 ※水曜定休
HP

次回エキシビション
「Grace Ahlbom 写真展」(仮)
開催日:2019年1月15日(火)~

Grace Ahlbom『Music from My Eyes』

writer: Kiwamu Omae