iPhoneを手にロサンゼルスの一角を5年間見つめ続けた写真プロジェクト、シェーン・スミスの個展が開催
2026.03.17

日常の風景に潜む人間の感情や気配を観察し、写真と言葉で記録し続けるアメリカの写真家・アーティスト、シェーン・スミス。代表的なプロジェクト『The Sunset and Fairfax Rite Aid Parking Lot Collection』の写真を展示する個展が、tHE GALLERY HARAJUKUにて3月27日と28日の2日間開催される。『The Sunset and Fairfax Rite Aid Parking Lot Collection』 は、ロサンゼルスのサンセット通りとフェアファックス通りにあるドラッグストアの駐車場を、約5年間にわたって同じフレームからiPhoneで撮影し続けたシリーズである。そこには、特別な事件ではなく、日常の合間に現れるささやかな行為や感情の断片が記録されている。
スミスの作品は、劇的な瞬間を追うのではなく、時間をかけて「見ること」そのものを実践する点に特徴がある。都市の匿名性、偶然の出会い、人間の脆さや孤独といったテーマを、静かな観察の積み重ねによって浮かび上がらせる。
写真だけでなく文章も制作の重要な要素としており、彼のプロジェクトはしばしば写真とテキストが交差する形で発表される。
セルフパブリッシングによる写真集制作にも積極的で、限定部数の出版物として作品を発表している。
スミスにとって写真とは、出来事を記録するための装置というよりも、注意を払い続けるための方法であり、都市の日常の中に潜む人間の姿を見つめるための長い対話のプロセスである。
◼︎キュレーター コメント
写真とは何をしているのか
— Shane Smithから考える「見る」という行為 —
長い間、写真とは「決定的瞬間」を捉える芸術だと考えられてきた。この考え方を象徴するのが、Henri Cartier-Bresson が提唱した「決定的瞬間」という概念である。
そこでは写真家は、世界の中に潜む意味のある一瞬を見抜き、それを切り取る存在として位置づけられた。
写真とはつまり、出来事の中から最も意味のある瞬間を捕まえる技術だった。しかし20世紀後半になると、この考え方とは異なる記録の方法が現れる。
1964年、Andy Warhol は映画Empireを制作した。この作品は、ニューヨークのEmpire State Buildingを固定カメラで約8時間撮影し続けたものである。
そこには事件もドラマもない。画面の中で起きているのは、ただ時間が流れているという事実だけである。
この作品は、写真や映像が「出来事を捉える装置」であるという前提を揺さぶった。カメラは出来事を捕まえるための装置ではなく、時間を記録し続ける装置にもなり得ることを示したのである。
見るという行為
ウォーホルのこの発想は、後にもう一つの装置の登場によって現実のものになる。それが監視カメラである。
監視カメラは決定的瞬間を探さない。ただ世界を見続ける。そこでは重要な出来事はほとんど起こらない。
人が歩き、車が止まり、誰かが立ち止まる。そのほとんどは、記録されても誰にも見られない。しかしそこには、確かに人間の行動が映っている。
つまり監視カメラは、世界を「出来事」ではなく「持続」として記録する装置なのだ。
iPhoneという監視カメラ
そして21世紀に入ると、この構造はもう一度大きく変化する。スマートフォンの登場である。いま人々は、常にカメラを持ち歩いている。そして日常を撮影し、SNSに投稿する。
そこでは劇的な出来事よりも、むしろ食事風景友人との時間移動の途中といった、特別ではない瞬間が記録される。
つまりSNSの写真文化は、決定的瞬間の写真ではなく、日常の持続の記録なのである。言い換えれば、世界はいつの間にかカルティエ=ブレッソンの世界からウォーホルの世界へ移行していた。
Shane Smithという観察者
この流れの中で現れたのが、Shane Smithである。彼はロサンゼルスのサンセット通りとフェアファックス通りの交差点にあるドラッグストアの駐車場を、約5年間にわたり同じフレームからiPhoneで撮影し続けた。駐車場という空間は、都市の中でも奇妙な場所だ。そこは目的地ではない。人はただ通り過ぎる。そして少しだけ無防備になる。つまり駐車場は、都市の中で最も日常が露出する場所なのである。そこでSmithは、ただ見続けた。髪を整える人。車の中で泣く男。見知らぬ人同士が小さな物を交換する瞬間。それらは事件にはならない。しかし確かに、都市に生きる人間の姿である。
写真は「切り取る」のではない
Shane Smithの作品は、写真に対する考え方を少しだけ変える。写真とは、世界を切り取る技術なのだろうか。彼の作品を見ると、むしろ逆に思えてくる。写真とは世界の中に居続ける方法なのではないか。カメラは出来事を捕まえる装置ではなく、世界に注意を向け続ける装置になる。見続けるという倫理都市の中では、ほとんどのことが見過ごされる。人は急いで移動し、次の場所へ向かい、次の出来事を探す。世界は常に「次の瞬間」に向かって進んでいる。しかし写真家は、その流れから少しだけ外れる。立ち止まり、見続ける。それは特別な瞬間を探すためではない。むしろ特別ではない瞬間が存在していることを確認するためである。
写真とは何か
Shane Smithの作品が示しているのは、とても単純なことだ。写真とは世界を説明するための装置ではない。それは世界と一緒に時間を過ごすための方法である。ーー米原康正
【プロフィール】
Shane Smith(シェーン・スミス)
シェーン・スミスは、日常の風景の中に潜む人間の感情や気配を観察し、写真と言葉を通して記録するアメリカの写真家・アーティスト。
ロサンゼルスを拠点に活動し、都市の片隅に存在する「見過ごされがちな場所」を長期的な視点で捉えるプロジェクトを多く手がけている。
【開催概要】
タイトル:The Sunset and Fairfax Rite Aid Parking Lot Collection
会期:2026年3月27日(金)、28日(土)
会場:tHE GALLERY HARAJUKU(東京都渋谷区神宮前3丁目20-21 ベルウッド原宿1階-C)
時間:11:00~19:00